【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第1章 尾形さん1
「あはは。わ、私にもよく分からなくて。お茶を飲んでいかれますか?」
すると尾形さんは空を仰いで少しでも沈黙し、
「いや、いい。連れを待たせている……いや、ここではどれだけ過ごしても時間が経過しないんだったな」
と、一人ごち、縁側に腰掛けた。
嘘みたいだが本当に、ここでどれだけ過ごそうが彼らの世界で時間は経過してないらしい。
「夢か桃源郷か、中尉殿にモルヒネでもしこたま打たれて錯乱したか……」
物騒なことを言いながら膝に頬杖ついたが、まあ一理ある。つか中尉って誰だよ。
「夢でも何でもないですよ。桃源郷なら私は仙女っぽくしてないといけないでしょうが」
すると尾形さんはニヤッと笑い、
「そうだな。あんたは仙女というより――」
「茶をぶっかけますよ?」
「怒るなよ」
うっさいわ。
私は急須から湯呑みに茶を注ぐ。ここから見える景色は緑の山だ。
でも尾形さんが今いるのは、冬の北海道らしい。
何でここに来るのか分からないけど、それなら暖かくして帰ってほしい。
尾形さんは縁側の座布団に腰かける。
そして何を考えているか分からない瞳で、青い空を見上げるのだった。
…………
「あんた、肺の具合はどうだ?」
茶を飲みながら、尾形さんが言う。
「ここは空気も澄んでいるので、丈夫になってきたと思います。最近は外を歩けるようになりました」
ここは未来の日本です~などとは言えないが、私まで得体が知れないと思われるのは困る。
そういうわけで『肺を病んで田舎で療養してる良いとこのお嬢さん』設定なのだ。
「そうか」
尾形さんにぶっきらぼうにかえされる。ならば何故聞いた。
「お仕事は順調ですか?」
「まあな」
しかし軍人さんの『仕事が順調』というのはどういう状態なんだろうか。
「北海道は寒いですか?」
「当たり前だ」
ですよねー。
「…………」
「…………」
か、会話が続かねえ!!
どうしたもんかと思っていると、尾形さんが饅頭(まんじゅう)を食べ終わった。
「お嬢さんの日光浴の邪魔をしたな。それじゃ――」
と、腰を浮かしかける。
尾形さんに言われると『働かず良いご身分だな』と皮肉られてる気になるなあ。
帰れ帰れーと思ったとき。
私の心臓が止まることが起こった。
座布団の下に隠したスマホが鳴ったのだ。