【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
網走監獄でスマホを返してもらう。あの夜、別れの際に交わした約束だった――のだが。
「えー……」
ヤバい。恥ずかしくなってきた。
大体、冷静になってから考えれば、別の合流地点を指定しても良かったんだよね。
そしてさらにさらに思い出した。あのときの尾形さんの言葉も。
『俺も網走に向かう。そこで、もう一度おまえの返事を聞く』
……再会の空気は霧散したが、今度は猛烈な羞恥心が襲ってきた。
「すみません。ちょっと待って。ちょっと待って。色々気まずくて恥ずかしくなってきたんで!」
うずくまって羞恥に耐えていると、
「……蒸し返すな。こっちまで恥ずかしくなって来るだろう。いいから受け取れよ」
「いーやーあー。網走でドラマチックに返して欲しい~!」
「どらま……? 意味不明なことを言ってんじゃねえ。いいから受け取れ。
何度も言ってるが時間がねえんだ、俺は!」
そういや鶴見中尉の指示を受け、第七師団が偽典獄の捕縛に動き出してるはずだ。
「ほら、梢」
私の頭に布包みの角をグリグリと押しつけてくる。
なので私も降参して受け取った。
「お預かり、どもでした……」
予想外に早く手元に戻ったが、明治時代においてスマホは最強のチートツールだ。
謎のメール差出人と連絡がつくかもしれない。
私はごそごそと布包みを開ける。
「大事にしてくれてたんですね。尾形さん、本当に――」
そして包みの中を見た。
「は?」
中には板が入っていた。スマホ大の木の板。
くんくんと嗅ぐとカマボコの匂いがする。
スマホじゃねえし。カマボコの板やん、これ。
しかもカマボコの板には達筆な字でこう書いてあった。
『馬鹿』
「…………くっ!」
私を見ていた尾形さんが後ろで噴き出した。
無表情に振り向くと、肩をふるわせ、笑いをこらえている猫が見える。
「あの。スマホがカマボコの板にすり替わってるんですが」
「網走で返すって言って、ここで返すわけねえだろ。馬鹿だろ、おまえ」
ほうほう。そのためにカマボコの板を仕入れ、わざわざ文字を……。
暇か!? 実は暇なのか、こいつ!?
「けど普通は重さで分かるだろうが、馬鹿正直に信じ込んで――」
スパーン!!
私のカマボコ板攻撃が、狙撃手殿の頭に炸裂した……。