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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



 私があまりにも反応しないので、尾形さんも閉口したようだ。

「本当にどうしたんだ、おまえらしくもない。
 前みたいに頭の悪い軽口を叩いたらどうなんだ?」

『梢らしくない』とは何ぞ。

 いや私だって、この場の空気をぶち壊す面白いことを言いたいですよ?
 イケてる冗句のシミュレーションは何度もしましたし。
 それを聞いて尾形さんが怒る顔とかも。

 ……。


 旭川に来てから私はずっと尾形さんのことを考えていた。

 夜に一人で北海道の地図を眺めては、今頃どこを旅してるんだろうと思った。
 
 私たちは別々の道を行くんだと。理屈で分かっても心が追いつかない。
 どうしようもない。ままならない。度しがたい。
 
 生まれて初めての感情が心の中で荒れ狂っていた。

 ……抑えられない。


「梢?」

「…………見ない、で……」

 ついに背を向けた。目を手で押さえた。
 この状況を茶化してやりたい。そして呆れて笑って、こづいてほしい。

 笑って別れたいのに。

「泣くなよ。おまえらしくもねぇ」

 後ろから抱きしめられた。私は首を振る。あと私らしいって何なのホントに。


「……すまない。おまえを置いて逃げた」


 表情は見えないけど、声に込められた感情は分かる。

 痛いくらいの後悔。

 あのとき、それしか選択肢はないと分かっていたとしても。

「…………っ!」
 
 もう限界だった。私は尾形さんを振り向く。
 止まらない涙がボロボロと頬を伝い、地面に落ちていく。
 すすり泣きが聞こえる。

「梢」

「尾形……さん……!!」

 絡め取られるままに、腕の中に飛び込む。


 そして私たちは抱きしめ合い、深い口づけを交わした。

 
「会いたかったです……! ずっと、ずっとずっとずっと!!!」

 胸にすがり、ずっと言えなかった思いをぶちまける。

「知ってる」

 外套で私を包み、背を撫でる尾形さん。
 涙が止まらない。会いたかった。やっと会えた。
 私の頭を撫でながら、尾形さんが言う。

 永遠のようでいてわずかな時間。

 私たちは互いに抱きしめ合っていた。

 …………

 そして尾形さんは言った。

「予定より早いが、これを返すぜ」
「あ……」

 渡されたのは、スマホの大きさの布の包みだった。

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