【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
「梢。何でおまえがこんなところにいるんだ……」
全力で走ってきたのだろうか。山猫は彼らしくも無く息を乱している。そして、まだ己の目が信じられないというように私を凝視していた。
だがむろん『甘い再会』という状況には無い。
偽典獄が現れ、これから何か起こるとして、尾形さんは間違いなく主犯サイドだ。
「とにかく、こっちに来い!」
私が一向に反応しないのに業を煮やしたか、尾形さんは私の腕を引っ張った。
周囲を超警戒しつつ移動、使われていない建物の陰までやってきた。
そして尾形さんは額の汗をぬぐい、大きく息を吐く。
「双眼鏡で様子を見てたら、いきなりおまえが窓を開けて現れたから心臓が止まるかと思ったぜ」
それで止まったとて、残り八つほどライフがありそうですな。
「だが何でおまえが旭川にいる。鶴見中尉と小樽にいるんじゃなかったのか?」
いや何回私を小樽にUターンさせるんすか。
それにしても網走監獄で会いましょうと昭和映画チックに別れたのに。
こんなにさっさと再会するとか、肩すかしもイイトコだなあ。
「まあいい。これから安全な場所に連れて行く。途中で少し騒がしくなるかもしれんが、流れ弾に当たらんように逃げろよ」
何か言わねば、と思うのだけど。
「…………」
「おい、いいかげんに何かしゃべったらどうだ?」
私が未だに無言、無表情なためか尾形さんは眉間にしわを寄せ不機嫌気味。
「……梢? おい、何とか言えよ。
時間がない。俺は今すぐにでも持ち場に戻らにゃならん。おまえに構ってる暇はないんだ」
逆に言うと、私を見て即、持ち場を放棄して敵地の中心部までいらしたと。
脱走兵のくせに。一緒に旅してる仲間がいるくせに。
金塊のためには、私より『作戦』の方が大事なはずなのに。
でも未だに呆然としていると、尾形さんがいよいよ険しい顔になる。
「……! まさかおまえ、奴らにひどいことをされたのか!? 誰に何をされた!」
いや何を想像したんですか。
勝手に想像して、勝手に激昂して、勝手に銃を下ろして。
尾形さんらしくもなく殺意を目にたぎらせる。
でも前みたいに『裏切った』『情報を流した』なんてことは心配してないんだ。
素直に私の身を案じてくれているんだ。