【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
何で典獄の人がなりすましと気づけたか。
言うまでもなく、ありもしない話をされたからだ。
連れの人も、疑いの目をそらすためワザとあんな目立つ格好をさせてるんだろう。
それに窓を開けて外を見たとき、遠くにチラッと双眼鏡の反射も見えた。
フッ。未熟者めが。私の突然の行動に動揺し双眼鏡を隠し忘れたに相違あるまい。
「あれは天才詐欺師という奴ですね。わずかな挙動から私の性格を見抜き、私の記憶があいまいなことにつけこみ『いかにもありそうな』偽の出会いをその場で創作。
だが敵の誤算はただ一つ! だますに私は聡明すぎた!!」
……。
……シーン。
「ええと。梢さん、もういいかな?
鶴見中尉殿からのご伝言だ。敷地はどこも危険になるから、建物内部で待機するようにと。
遠隔狙撃の危険もあるから窓から離れた場所で身を伏せていなさい、とのことだ。
くれぐれも『いつものように』危険に首を突っ込まないでほしいと」
「はあ」
部下の人のスルーに超傷つく!!
いやツッコミ入れてる時間も惜しいんでしょうが!
鶴見中尉も人を何だと思ってんだ!
私にそんな足手まといスキルは実装されてないわ!!
……ちなみに部下の人は鶴見中尉に連絡を取った帰り道である。
私に何か出来るか聞いたのだが、やはりというか何もないようだ。
「いいかい。確かに伝えたからね。ちゃんと安全な場所に隠れてるんだよ! それじゃ!」
部下の人はとっとと走って行く。
まあ私の話をちゃんと聞いてくれるだけ十分親切だ。
鶴見中尉の部下の人たちは、決して私を軽く見ないのである。
しかしなあ。偽典獄の目的は何で、これから何が始まるんだろう。
「とりあえず私の宿舎に行こう。あそこなら安全だよね」
まだドンパチは始まらないよね。そうであって下さい!
私は兵営を出てコソコソコソと、建物の影を縫うように動いた。
そのとき。
声が聞こえた。
「梢」
一瞬、信じられなかった。
何でここに。どうして彼が。
あり得ない。あり得るはずがない。
でも声がする。
「梢!」
もう一度呼ばれた。
ついに私は振り向いた。
そこに彼がいた。
尾形百之助が。