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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



 困ったな。
 網走監獄に連れて行ってもらおうと思ってたのに、フェイクストーリーは完全に頭から吹っ飛んでしまった。

 そもそもこのお連れさん、ホントに看守なのか? 雰囲気もこう、獣みたいで――。

 …………。


「あの。もしかして以前、お会いしませんでしたか? いつだったか忘れたんですが……」

 どうしても気になったので、すぐに退室せねばと思いながら聞いてしまった。

 この看守さん。どこかで何度か会った気がする。

 もちろん私の言葉は覆面の看守さんに向けられたものだった。
 ただ直視が怖い眼力だったので無意識に目をそらしていたかもしれんが。

「覚えているとも。数年前にご親族の葬儀の際、あなたにご挨拶を」

 応えたのは所長さんの方であった。

「え? そ、そうでしたっけ?」
「お忘れのようですな」

 所長さんの方から返答され、もろにキョドったが、相手は自信たっぷりに笑いかけてくる。

「無理も無い。あなたは私が話しかけるとすぐに奥に引っ込んでしまわれましたからな」
「い、いえ、私こそいきなり話しかけられてびっくりしちゃいまして……あのときは大変失礼いたしました」
「いやいや数年でずいぶんとおきれいにおなりだ。
 しかも女性の身でこんな場所にお勤めとは」

 世間話に入られそう! すぐ出ねば!!

「いえまだまだご迷惑ばかり――あ、あの、窓を開けますね。ほこりっぽいでしょう」
「それは助かる。ありがとう」

 私はドギマギしながら窓を開け、それからお二人に向き直っておじぎをした。

「では失礼させていただきます。中佐はもうすぐ参られると思いますので」
「こちらこそ、懐かしさにお引き留めをしてしまった。ありがとう」

 外に出て扉を閉めるまで、心臓が鳴りっぱなしだった。

 私は、足早に階段を下りる。すると逆に階段を上がる影を見た。淀川中佐と補佐の人だ。

「あ。淀川中佐様! あの――」
「どいてくれ、急いでいる」
 
 はーい。

 私は素直に道を開け、でも隙を見て補佐の人に耳打ちした。

『あの典獄は間違いなく偽物です。外に狙撃手っぽい人影も見ました』

 彼はうなずき、ねぎらうように私の肩をポンと叩いた。
 彼は鶴見中尉の息がかかった部下の一人。
 これで大丈夫だ。

 そして人影が無くなり――私は一仕事終えた思いで、ホッとして壁にもたれた。
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