【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
網走監獄!?
心臓が止まるかと思った。元の時代に戻るため、網走監獄に行く道を探していたら、まさかそこのお偉いさんが来るなんて!!
もしや私を迎えに!?
……なワケないか。軍と監獄は切っても切り離せない仲。何かしら用事があるんだろう。
実際、皆の話を盗み聞くに、公務か何かで淀川中佐に会いに来たらしい。
ちなみに典獄というのは、現代で言う刑務所の所長さんのことだそうな。
どうにかして、網走監獄に帰るとき連れて行ってもらえないだろうか。
いやさすがに怪しすぎないか、その頼み。うーん……。
「梢ちゃん、大丈夫? 典獄って言っても怖い人じゃないから大丈夫だよ」
ポンポンと肩を叩かれる。ここでは私、ほぼ子供扱いなのだ。
「でも嫌なら梢ちゃんが無理に行かなくても――」
「いえいえいえ!! 行きます! お役に立ちますから!!」
世間知らずのお嬢さん扱いして、私が怖がるとか勝手に決めないでほしいな。
とにかく夕張のときみたいに事情を捏造して、こっそり連れて行ってもらうしかない。
私は茶と茶菓子の乗ったお盆を持った。
「何も話す必要はないからね。淀川中佐はすぐに来られるとだけ伝えてくれ」
「はいはいはーい。行って参ります!」
私はお盆を持って応接間に急いだ。
…………
そして網走監獄の典獄――所長さんにお茶を出すことになったのだが。
扉を開けるまでは完璧であった。同情を引けるような偽の経歴も頭の中で作った。
私はノックをし!洗練された所作で室内に入り!涼やかな笑顔を浮かべ――。
「失礼いたしま――ひっ!?」
……お盆を落っことすかと思った。
「ああ。驚かせてすまない、お嬢さん。こちらは看守の男で、見た目はこうですが危険な者ではありません」
「いいいいいえ、こ、こ、こちらこそ大変な失礼を……」
一人じゃないのかよ!!
なぜ驚いたかと言うと、室内にいたのは網走監獄の所長さんだけじゃなかった。連れの人がいたのだ。
『見た目はこう』と言う通り、真っ白な覆面すっぽり被って怪しいどころじゃない。
私は態勢を立て直し、覆面の人を横目に見ながら、震える手でテーブルに茶と茶菓子を置いた。
「よ、淀川様はすぐに来られるそうです」
「ありがとう」
犬童という典獄の人は微笑みうなずいた。