【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
私は顔をそむける。寂しいのは事実だけども、だからってあれだけ言われて許せるか!
「すまない梢。おまえを軽く見ているわけではない」
鯉登少尉もちょっと声を和らげた。私を優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「私にも使命がある。だからおまえを一生幸せにする、とは約束出来ない。
だが私なら……おまえに形あるものを残してやれる。寂しい思いはさせない」
それを聞いてふと思う。
目的はさておき、やはり鶴見中尉は私をこの世界に留めさせるため、鯉登少尉とくっつけようとしてるんだろうな。
例えこの先、元の時代に戻る道が開けても、そのとき私に夫と子供がいれば、私が明治時代に残る可能性が高いからだ。
鶴見中尉と私では歳が離れてるし、月島軍曹は最初から鶴見中尉に殉ずる覚悟。尾形さんも身一つで戦っている。
けど鯉登少尉なら……『家』という風習に従う形ではあるが、確かに私に確固たるものをくれる。
――え。じゃあ余計にダメじゃないか! ここで流されたら鶴見中尉の思うつぼですよ!
早いとこ旭川を脱出して、とっとと網走に行かないと!
「まあまあまあ、音之進様。落ち着いて。その話は後日しましょう。とりあえず寝ましょうよ」
一気に素面に戻り、どうどうと鯉登少尉を落ち着けようとするが、
「梢」
「――!」
名前を呼ばれただけなのにビクッとする。
鯉登少尉は鯉登少尉で、全く変わらないのに、射すくめられた気がした。
「私についてこい」
真摯なまなざしで告げられる。でも何度もNOの意思表示はした。ここから先には進めないのに。
「…………」
首を振ったが怖じ気づいたのは明らかに伝わった。
それを見た鯉登少尉が、わずかに喉を上下させる。暑くも無いのに額の汗をぬぐい、
「……そう怖がるな。辛い思いはさせないから」
そう言って、軍服の詰め襟のボタンを外す。
「私は尾形のように、おまえを捨てたりはしない」
なぜ尾形さん……。あと捨てられてないから。ホントだから!
私もあきらめて力を抜いた。
「梢。目を閉じろ」
言われて従う。さっきと同じにやわらかい物が押し当てられた。
舌が唇を割って入り込み、そっと口内に潜り込む。
そして、しばらく二人で深い口づけをかわしていた。