【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
まさか第七師団の敷地内で襲われると、誰が思うだろう。
そもそも私みたいなガキを襲う物好きなどそうそう来ないだろうと、防犯も適当だった。それが災いしたのか。
「梢。頼む、抵抗しないでくれ」
私を押さえつけながら、無茶な懇願をする鯉登少尉殿。
「いえしますって!……お願い、離して下さい……!」
私はかなりマジなモードで抵抗していた。
その、他の人ならそこまで抵抗しないと思うんだけど。
鯉登少尉は何というか……重いし。
「嫌だ! もう散々我慢した!!」
でもまさか鯉登少尉が『実力行使』に及んでくるとは思わなかった。
婚約者と思っているのは周囲だけで、実際には話は一歩も進んでないのに。
「梢。私の気持ちは知っていただろう? ずっとおまえを見ていた!!
なのにおまえという女は次から次へと……!!」
う、うん。言い訳出来ませんな。
「いやあ、何か人肌恋しくて」
この返答はどうなのと思ったが、ほぼ事実なのであっけらかんと答えた。
「――!!」
案の定、鯉登少尉はみるみる眉間にしわをよせ、
「おまえという女は……!」
三時間説教五秒前というあんばいだ。
「……っ……いや、おまえだけに非があるとは思えない……」
お?
鯉登少尉は苦悩する顔で、
「鶴見中尉殿は男の中の男。意志の弱いおまえが誘惑されるのも分からんではない」
ほほう。ケンカを売るとは良い度胸だな。
あとやっぱり気づかれてましたか。
「月島も尾形も軍人だ。おなごが腕力で勝てる相手ではない」
うーん。確かに力押しなとこもあったし……まあ私が拒否しないのが一番問題だと思いますが。
「そして鶴見中尉殿に言い寄られ、断れる女もいるはずがない」
……いやあんた、二回も鶴見中尉をプッシュしてますが、どんだけ中尉大好きなの。
あと鶴見中尉に言及するとき、ちょっとうらやましそうな顔で私を見なかったか? 深く考えないでおこう。色々怖い。
「梢……私と一緒になってくれ」
鯉登少尉は切なそうな声だった。でも私の答えは決まっている。
「ごめんなさい」
「!!」
彼の端正な瞳が見開かれる。けどギュッと目をつぶり、
「…………人肌恋しいというのなら、私でも良いだろう?」
震える手を私の頬に当て、唇を重ねたのだった。