【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
「音之進様、何を考えてらっしゃるんですか。今は夜ですよ!?」
この宿舎には私以外、誰もいないと分かってるが、ひそひそ声で言った。
軍隊は厳しい。夜間に許可無く自由行動などもってのほか。まして女に会いに行ったことがバレたら、将校だろうとどんな厳罰が下るかわからない。
「私は大丈夫だ。それにその、昼間に話は終わってないと言っただろう?」
だからと言ってこんな真夜中にコソコソ会いに来るか普通!
「あー、すみません、音之進様。私もう寝ますんで。このことは絶対誰にも言いませんから……」
黙っててやるからとっとと帰れ。
言外に脅しを込めたのだが。
「梢。机の上のこの書き物は何なのだ?」
空気を読まない鯉登少尉は厳しい声。
あ。やっぱり見られてたか。机の上の書き物とは、大雪山越えの登山計画である。
う、うん。登山ルートとか難所の越え方とかまで細かく書いてあるね。
だが梢さんは慌てない。
「机上旅行ってやつです。こうやって旅行計画を立てて、本当に旅行に行ったような気になるんです」
この遊び自体は本当にあって、昔は紙の時刻表を使って、乗り換え時間も鉛筆で計算してたそうな。
「ほう。それで大雪山を越えて、はるばる行く先がなぜ網走監獄なのだ?」
「…………」
地図にしっかり印をつけていた。アホか私は。
こればかりはどう説明すればいいんだろう。
「いやあ、その。あははは……」
「梢。おまえ、まさかアイヌの金塊探しに参加するつもりなのか?」
「は?」
唐突な言葉にポカンとする。
たまに忘れかけるけど、皆さん徳川埋蔵――じゃないじゃない! アイヌの金塊探してるんですよね。
でもなぜいきなり。もしかして網走監獄とアイヌの金塊って、つながりでもあんの?
しかし鯉登少尉は真剣だ。
「おまえは頭が良い」
いやあそれほどでも。
「もしや鶴見中尉殿もそれでおまえを……いやそれだけはダメだ。危険すぎる!!」
いえ危険って知ってますよ。勧誘されたって絶対参加しないし。
「梢……!」
鯉登少尉が私を抱きしめた。
力ずくの激しいキスをし、私をベッドに押し倒す。
「それとも、尾形を探しに行きたいのか? まだあいつに心引かれているのか!?」
……それはない。
と思う。