【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
「君、大丈夫?」
転んだわけじゃないし。でも庇ってくれたんだし、お礼は言うべき?
「あ。どうも……その、すみません」
お礼を言い、その人と目が合った。するとその人はみるみる目を見開き、
「……っ!! 白石由竹(よしたけ)です! 独身で彼女はいません!!」
……単なるナンパだった。
しかも手首縛られてるじゃんこの人。移送される犯罪者ってことでしょ。
「いいから来い、白石!!」
白石なるオッサン、私に迫ろうとしたとこを兵隊さんに襟首つかまれ、引きずられていく。
「お気をつけてー」
私は適当に手を振って彼らが行ってしまうのを見送り、今日は厄日か何かなのかと思ったのだった。
…………
…………
その夜。
「うーん……」
部屋で、北海道地図を前に腕組みする。
「どのルートでも無理かあ」
机の上は山越えのメモ書きでいっぱいだ。
でも色々とルートをシミュレーションして、どう考えても私一人で大雪山越えは無理という結論しか出ない。
体力もなければ経験もない、登山装備もない三重苦。
「やっぱリュックを燃やすんじゃなかった~!!」
ヤケになって充電器をぐるぐる巻きながら叫ぶ。
「…………寝よ」
寝て起きたら何か良いことがあるかもしれない。
尾形さんたちが旭川に来るとか。
「いや、どういう偶然ですかそれ」
鶴見中尉と敵対してる彼らが、何の奇跡でわざわざ第七師団の総本部に来るというのだ。
硬いベッドに横になり、ため息をついた。
網走で待っているという誰かは、今この瞬間にも私を待っているのだろうか。
それとも、あきらめて帰ったのだろうか。
「もし帰れなかったら……」
分からない。心がぐちゃぐちゃだ。
「ん……」
あくびが出た。いやダメダメ。寝る前に、もう少し――。
…………
…………
唇に何か触れた気がして、目を開けた。
「う……うわっ!!」
騒音。何かが私の上から盛大にのけぞり、足を滑らせて後ろに転倒したのだ。
「……音之進様?」
明かりも消さずに寝ていた。燃料がもったいない!
「何やってんです?」
床でしりもちついてる少尉に言ったが。
「い、生きているならそう言え、馬鹿者!! 呼吸を止めていないか顔を近づけて確かめてしまったではないか!!」
そんな理不尽な。