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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



「梢……どこにも、行かないでくれ」

 ガバッと抱きしめられる。

「音之進様……」
 
 返答に迷っていると、コホンとどこかで咳払いが聞こえた。兵舎の方だ。

 そういえば兵舎裏でしたよ。あんまり堂々と密会してたら、どこかしらにチクられる恐れもある。

「音之進様、音之進様。その話はまた今度にしましょう。
 ここは人の目がございます。部下の方にもしめしがつきませんよ」

 私はポンポンと鯉登少尉の背を叩く。
 すると彼はガバッと身体を離し、

「梢。前から思っていたが、おまえは時々私を子供のように扱うな!」
 むすっとすねる様子は、確かに年上とは思えませんな。
「もっと人を敬うということをだな――」

「いえいえいえいえいえいえいえいえ。別にそんなことは。音之進様、超敬ってます。
 そういうわけで、私はそろそろ司令部に戻らねばなりませんので」

 私は私で色々忙しいんですよ。鶴見中尉の手前、適当に勉強もしとかなきゃいけないし。

「梢! 話は終わってないぞー!」
  
 延々と絡まれかねんので、そそくさと兵舎から脱出した。
 ちょっとホッとしながら。


「さてと」

 ちょいと書類届けに行くはずが、回想シーン込みでずいぶん長くなったもんだ。
 
「しかし本当に広いですね、ここは」

『軍都』と呼ばれるだけあって、施設がとにかく多い。
 兵舎から司令部に戻る道も長いのだ。

「昼近いし、甘味処にでも寄って帰りますかね」
 お忙しい皆さんにお団子でもおみやげに――。

「うおわ!!」

 ボーッとして歩いてたら、兵隊さんたちの列にぶつかりそうになった。

「しっかり前を見て歩け!」
 横柄に怒鳴られた!

「すみません、すみません!」
 ぺこぺこ頭を下げ、兵隊さんの列に道を開けたとき、

「ちょっとちょっと。女の子にぶつかっといて一言も謝らないのはないんじゃない?」

 ん? 振り向くと、半纏(はんてん)を着たはげ頭のオッサンが、兵隊さんに食ってかかっていた。

「あの子、転びそうになってただろう? あんたらこそ前見て歩けよ!」

 んんん?

「うるさい! とっとと歩け!!」

 兵士の人は半纏の人をこづいて歩かせようとする。
 しかしその人は無視して、私の方を見た。

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