【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第3章 ラッコ鍋(尾形編)
鍋の匂いが充満している。
まあ火の勢いは落としてるから大丈夫だろうけど、
「いったい……なぜこんなことに……」
畳の上に押し倒されながら、呆然とする。
「ん?」
舌先で胸を愛撫している男が、少し顔を上げた。
……っ……。
今、危うく『止めないで』と言うところだった。ヤバかったあ!
「だって、変じゃ、ないですか……」
あえぎながらも、かろうじて残った理性で疑問を呈する。
「これ、何かおかしいです……」
恋愛対象として意識してるかすら微妙だった男に、真っ昼間から欲情を抱いている。進んで身体を差し出そうとしている。
いったい何で――?
私がなぜか鍋に目を転じようとしたとき、
「……っ!」
「こんなに濡らしておいて、今さら『なぜ』と聞くか?」
「……ぁっ……」
ぐしょ濡れになった下着を指先で弾かれ、甘い声が出てしまった。
だけどもっと触ってほしいのに、手が離れた。
「ん、ん……っ……」
もどかしい。イライラする。もう衣類は剥がれ、身を隠す物はほとんどないのに。
だけどこの男は、焦らすように愛撫を続けている。
また唇が重なった。
キスとか、いいから……。
「尾形さん……はや、く……っ……」
だが敵は余裕の表情で私を見下ろし、前髪をかき上げる。
「ずいぶん積極的だな。どこに触れてほしい。何をしてほしい。自分で言ってみろ」
――殺す!
と思ったけど、獣と目が合った瞬間に殺意が萎える。
「梢……言えよ」
「…………」
しばし逡巡したが、敵はゆずる気配がないらしい。
怒りと自尊心が争い、最後は欲望に屈した。
「…………ほ、欲しい、です……」
「何を?」
このクソ猫がっ!!
「お、尾形さんの……×××が……わ、わ、私の……×××に、ほ、ほ、ほしい……」
羞恥心で震え、手で真っ赤になった顔を隠しながら言う。
――やっぱりおかしい。いったい私、何でこんなことを……!
視界を覆えば、嗅覚が敏感になる。むせるような匂いにおかしくなりそうだった。
すると尾形さんが私の手を優しく取った。
情欲と混乱と怯えで涙目になった私に口づけ、耳元で低くささやく。
「いい子だ、梢」
褥(しとね)の言葉にはおよそ似つかわしくないようなことを言い、彼は身体を起こした。