【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第3章 ラッコ鍋(尾形編)
「家のことでも気にしているのか? ま、事故を起こさねえようにするし、何なら初夜での男のだまし方を教えてやるよ。まず鶏の血を――」
いや待て! 何か色々待て!!
「尾形さん、そういう生々しいの、良いから……!」
「そうだな。興ざめになる」
尾形さんはニヤッと笑った。ん? もしかして引くの?
「今は、おまえだけだ」
身体を崩し、私に覆い被さるようにする。
尾形さんの目が、よく見える。
女を口説くようなことを言いながらも、その瞳には光がない。
冷めたような虚ろのような、でもよくのぞきこむと、その奥に――。
「梢。嫌なら拒め」
目を閉じた瞬間に、唇を重ねられた。
そんな言い方、ずるい……。
恋愛感情を抱いているかも分からない人なのに。
でもこの部屋の空気が、あまりにも変で……自分の奥底の本能が、恋愛感情よりもより直接的なものを優先させている。
結ばれたい、番(つが)いたい、より率直に言うのなら――『ヤリたい』。
ああああああ! もう! 認めちゃったよ!!
「ん……んっ、ん……」
気がつけば、尾形さんの身体に腕を回している。
でも何をどうすればいいのか分からず、混乱と勢いで唇を押しつける、子供っぽいことしか出来ない。
すると尾形さんがなだめるように私の頭をくしゃっと撫で、頭を離す。
「舌、出せ」
「ん……」
もう一度、唇が重なりホッとする。
「ん……」
ゆっくりと侵入した舌が、私の口内を味わう。
「……っ……!」
手が、着物の襟元から中に入る。
白い襦袢の上から、身体の線をたどっている。
お、帯……。
スマートに解かなきゃとモゾモゾしていると、尾形さんが顔を離した。
「ほら、そう焦るなよ。初めてなんだろ? やってやるから」
猫がニヤッと笑ってる。
お、覚えてろ!
いや何を覚えてるのか分からないけど!
顔を真っ赤にしてぷいっと横を向くと、苦笑して頭を叩かれた。
「梢」
名前を呼ばれた。
だから目を閉じ、もう一度唇を重ねた。