【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
思い出すほどに顔面の紅潮が止まらない。
「あの、その節は本当にすみません。お父様に大変失礼な口をきき、あなたや鶴見様にも恥をかかせて――」
「いや父上はああは仰ったが、梢の聡明さに舌を巻いていた。
さぞ大量の書物を読み、己の研鑽(けんさん)に励んだのであろうと」
いや違う。全然違う。明治と令和の情報インフラの差です。
しかもあの話のソースはソシャゲだし。
ちなみにあの後、私はついに酔いに負け、鯉登少尉の腕の中でつぶれた。
そのとき私の耳に聞こえたのは――。
『お分かりいただけたでしょう、閣下。梢嬢は可能性の塊。
古い壁を打ち壊す、新しい時代の風なのです』
なぜ自分の手柄みたいに言う鶴見中尉。
つか、私は誰かがぶち壊した壁の向こうから来た人間だし。
ちなみにあれだけの醜態を晒したにも関わらず、ご夫婦は私を気に入ったようだ。
薩摩の女性は強い人が多いので、気性の強さを買われたフシもある。いや酒が入ってたからなんだけど。
ともかくお二人は爆睡する私への見舞いの言葉を残し、青森に帰られたそうな。
いや、上手く言ってどうする!!
だが、その一件の噂が広まり、私はいつの間にか周囲に『鯉登少尉の許嫁』扱いされるようになった。
だからこの時代に男女二人きりで会っても、そこまで(少なくとも表面上は)白眼視されていないのだった。
で、場面を兵舎裏に戻しますよ。
「梢は、嫌なのか? やっぱり――」
鯉登少尉は顔を曇らせている。
尾形さんと二人旅をしてたとか、月島さんと一夜を過ごしたとか知られてるもんね。
下手をすると鶴見中尉との仲まで勘ぐられている可能性がある。
「嫌というか……」
私は言いよどむ。
そもそも、この時代に残ることは以前から選択肢にない。だから今、必死になってるのだ。
まったく、鶴見中尉も余計なことを――。
…………
ちなみにあの後、私はひとけの無い場所に鶴見中尉を呼び出した。
「鶴見中尉! あんた、いったい何考えてんですか!!」
もうこっちの正体はバレてるんだし、何を遠慮することもない。
胸ぐらをつか――めないので、もうちょい下、手の届く場所をひっつかんで精一杯すごんだ。
鶴見中尉はいつものごとく笑っていたが。