【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
××日前の夕刻。私はご機嫌な少尉に連れられ馬車に乗った。
どこに行くかと思ったら高級料亭。
そこで鶴見中尉が待っていて――鯉登少尉のご両親を紹介された。
いや見合いだよね?
どう考えても見合いだよね!?
鶴見中尉、完全に後見人の顔で嘘八百の私の家柄を語ってるし!
この男、私の戸籍回復に熱心だと思ったら、私を華族に仕立てて鯉登少尉とくっつけるつもりだったのか!?
お座敷で私は真っ青でカタカタ震え、未来の姑――じゃない!! 鯉登お母様の値踏みするような視線に耐えていた。
「才女という点は結構。だが鶴見殿の推薦とは言え、女性が軍にいることは容認出来ませんな」
重々しく言う鯉登お父様。お母様は横で頷いている。
そうですね、私も超同意です!
と思ってると。
「音之進と結納を交わした暁には、すぐに勉強を止め青森に来てもらう」
いや結納って。私、一度もその話聞いたことないんすけど。
「しかし父上――」
鯉登少尉は異議ありげだが、父の権威が絶対の時代。口答えがしづらい模様。
不思議と、鶴見中尉は口を挟まず静かに話を聞いている。
そして鯉登お父様は言ったのだ。
「女に学問など必要なか」
……。
落ち着け。おちつけー。
『女の幸せは結婚』というこの時代、不思議でも何でもない考えだ! 怒るな。場を乱して少尉たちを困らせるな!
お水でも飲んで落ち着いて――。
「おい梢。それは大吟醸――!!」
時遅く、酒は私の食道を焼きながら通過していった。
…………
詳しくは覚えていないのだが、その後私は殴りかかる勢いで少将閣下と激論を交わしていたらしい。
まあ私の弁論の大部分は、説教じみてるので割愛。
しかし知識チートも古い慣習の前では機能不全。鯉登父は私の平等理論を『ご令嬢の理想論』とことごとく相手にしなかった。
ただそのお父様が唯一耳を傾けたのは、私が最後にしたナイチンゲール女史の話だ。
『統計学の母』たるナイチンゲール。彼女の尽力が現場の衛生状況を改善、傷病兵の死亡率を下げた。
学問は必ずお国のために役立つ。私の熱弁に鯉登お父様は初めて否定を止め『そうか』と重々しく頷いたのだった。
……私。勉強嫌いがどの口で。
しかもその逸話、ソシャゲで知った話だろ。という内なるツッコミはさておこう。