【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
日露戦争直後で国際情勢もきな臭いこの時代。軍隊生活は超厳しい。
鶴見中尉みたいなフリーダムな人は例外で、普通の軍人は平時であろうと規則でガチガチに縛られてるはずなんだが。
「なかなか会う暇が見つからんな。早く二人一緒に鶴見中尉の元に戻りたいものだな」
鯉登少尉はひとけのない兵舎裏で、私と立ち話である。呑気だなあ!
あと私は別に鶴見中尉のとこに戻りたくないっす。
鯉登少尉は腕組みし、
「次の休みはどこに行く? 名物の店には大体行ったしな」
……デートコースの相談じゃないんだから。
まあ私の立場は微妙だし、鯉登少尉も将校クラスだから休日の外出はそこまで咎められないみたいだけど。でも兵舎近くで話すことか?
「あのですね、音之進様――」
「梢はどこか行きたいところがあるか?」
網走監獄☆――なんて言えるか!!
「い、いえ。私はもっと勉強させていただきたいと――」
「真面目な奴だな! そうだ、雑用代わりにこき使われていないだろうな?」
「いえ大丈夫です、大丈夫……」
まあ雑用に近いが、民間人が軍関係の機密書類に触れられるってだけでもスゴい。
それに私は近いうちにここから逃げるつもりだし、平等な扱いは求めてない。
すると鯉登少尉は腰に手を当て、
「おまえは鶴見中尉殿の推薦を受け、軍にいるのだ! 使用人のような扱いをされるのなら中尉殿に叱っていただいて――」
「いえいえいえ!」
叱るって、中佐でしょ淀川さん。
「そこまで特例扱いいただきたいとは思いません。鶴見様のお役に立ちたいですが、女らしく出しゃばらずお許しいただける範囲で学びたく思います」
すると鯉登少尉は目を丸くし、
「何だ、威勢が無いな。もっと父上とお話したときのように――」
「言うなあああああ!!!!」
私の豪快なラリアットが鯉登少尉を吹っ飛ばした。
『おい、またやってるぞあの二人』
『今日も飛んだなあ。あれ本当に女か?』
兵舎の窓からヒソヒソと声が聞こえた!!
…………
私が鯉登少尉と二人きりでいても、あまり後ろ指を指されないこと。
紅一点でもパワハラやセクハラを受けてないこと(平等的視点はさておき……)。
これらの理由に鶴見中尉と――先日、旭川にお越しになった鯉登海軍少将、つまり鯉登少尉のお父様のご威光がある。