【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
久しぶりに一人になり、私はベッドの上で、これからのことを考える。
むろん、こんな場所で本気で何年も勉強して、鶴見中尉の飼い猫になるつもりなんてない。
目的は変わらず、元の時代に戻ること。
そのために網走監獄に向かうこと。
「それにこれも取り返せたし」
私は『災害用手回し充電器』を宙に放り投げ、パシッと受け止める。
隙を見つけて鶴見中尉からくすねたのだけど、向こうには気づかれてるかも。
「あとは旅の準備をして、網走監獄に単独で向かう!」
――と威勢良く言えればいいんですけどぉ。
私は壁に貼った北海道地図を見て肩を落とす。
旭川から網走までは直線距離で200km。
行く手を阻むのは東西60km近い広大な大雪山系。
暖かいこの時期でさえ山頂気温は零下を下回るという。
到底、小娘一人で越えられる山じゃない。
「ダメだ。どうやって行けばいいんですか」
なら旅慣れた人と一緒に行く?
パッと思いついたのは、夕張近くで会ったアイヌの女の子。
……うん。今頃、尾形さん達とどこを旅してるんだろうね♪
別れるんじゃんかったああ!! 今さら遅いけどお!!
「八方塞がりじゃないっすか」
やっと鶴見中尉から逃れたというのに。
「尾形さん、スマホ返して~」
満充電になった充電器を巻きながらぼやく私であった。
「ん?」
そこにダダダッと誰かが廊下を駆ける音。
そしてノックもなくバタンと扉が開き、
「梢ー!! 食事に行くぞっ!!」
鯉登少尉は一転、超ご機嫌であった。
…………
そういうわけで、軍都旭川での生活が始まったのである。
最初は戦々恐々であった。
いったいどんなパワハラセクハラ、無理解と偏見が待ち受けてるのだろう。
勉強とは名ばかりで、何も教えてくれない嫌がらせを受けたりされたらとか思ってたが――。
××日後。
「梢さん、宛名書きを頼む」
「頼んだ書類の仕分けは――ほう。もう出来たのかね?」
「お茶を入れてくれないか、梢さん」
「鶴見中尉殿からの書簡だ。鯉登少尉殿にお渡ししてくれ」
……それなりに忙しかった。
私は司令部の建物を出て、聯隊(れんたい)兵舎に行く。
「梢!!」
鯉登少尉が嬉しそうに出迎えてくれるのであった。