【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
そういうわけで、私も立ち上がれるようになった。賊の追撃があるかもしれない。
そろそろ出発という頃合いだ。
私は木陰で休まされ、皆の準備をボーッと見てるしかない。ふがいなや。
うーん……。
私は皆に見られないよう、自分の匂いを嗅ぐ。
大丈夫だと思うけど、やっぱり気になるなあ。昨晩、川で水洗いくらいしておくんだった。
でも流れが速い川だし、ヒルがいるかもだったし……。
なので、懐から香水を取り出す。
ほんの少量を手に取り、そっと髪や衣類になじませた。
「ん?」
馬の準備をしてた鯉登少尉が気がついたみたいだ。私を見て笑顔になり、
「梢。良い――」
何か言いかけ、顔を曇らせる。
「すまん。何でも無い」
気づかれたかな……。何か気まずいな。
……。
いやいやいや!! 私、別に鯉登少尉とおつきあいしてるわけじゃないし、浮気したわけでもないからね!?
ある意味、浮気よりもエグい状況になっているが、それは置いといて!!
そして馬のいななきが聞こえた。
「梢」
鶴見中尉が馬上から私を呼ぶ。
「はい」
今度は怖がらず、馬に乗ることが出来た。
…………
そしてその後は何ごともなく旭川についた。
このあたりは退屈なので、ちょっと簡単に記す。
まず鯉登少尉たちと一旦お別れし、鶴見中尉について司令部であちこち挨拶回り。
しかしあちら側も初めてのことなので、相当戸惑ってるらしいのは伝わってきた。
次に私が泊まる宿舎について案内され、そして鶴見中尉はさっさと小樽に戻ってしまった。
…………
…………
「はあ……」
銭湯から戻って人心地ついた。
ちなみに私が泊まるのは、普通の兵隊さんが居住する兵舎ではない。
男性しかいない兵営にお嬢さんを泊めるワケにもいかないので、町の方に宿を借りてもらったのだ。
私は毎朝そこから司令部に通い、色々教えてもらうのだという。
軍人ではないので、軍隊にまつわる細かい規定は一切適用されないし、休日は何をしても自由。
というかお勤めが終わり、司令部を出たら自由。
バイトか留学生のような状態に近い。
規律にぎちぎちに縛られてる軍人さんには、さぞかしお気楽な身分に映ってるだろう。
……気が重いわ。