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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



 山道を走る鯉登少尉は悲壮であった。

「梢、しっかりしろ! 合流地点まであと少しだからな!! 死ぬんじゃ無いぞ!!」

 死ぬかっ!! 軽い脱水症だって鶴見中尉から説明受けてるでしょうが!!
 話しかけられたら負担だろうと、ずっと黙っているのが不味かったか。完全に負傷兵扱いである。

 ちなみに鶴見中尉殿は遅れもせず、さっさとついてくる。

 皆さん、やっぱり鍛えてるんだなあ。
 月島さんもそうだったけど、現代人と体力がまるで違う。
 
「旭川でおまえと行きたいと思っていた場所がたくさんあるのだ!
 それまでは死ぬことは許さん!!」

 だから死なないってば!!

 ……あと私が軍都で勉強するってのを、観光で滞在するのと勘違いしてないかこの人。
 公私混同も甚だしいが、鶴見中尉の方からツッコミは来なかった。
 何か返事をした方がいいのかな。

「そ、ですね。私は旭川で……ラーメン、食べたいです……」

 そういえば北海道にいるのに、私まだ一度もラーメンを食べてないような。

 ん?

「ラー……? 何だそれは?」

 鯉登少尉が歩を緩め、不思議そうに返してきた。

「え? あれ? 知らないですか? ほら、麺を――」

 すると鶴見中尉がちょんちょんと私の背中をつつく。
 私が振り向くと、鯉登少尉に見えないよう、口パクで、

『梢、梢。その料理はまだ無いよ』

 ……。

 …………。

 そうだ。まだなんだった!!

 あと何年かしたら日本初のラーメン店が東京にオープンして爆発的ヒットになるんだけど、この時点で日本に『ラーメン』という言葉は生まれてない。

 やばい。脱水で判断力が死んでた。危うく息をするように日本の料理史を変えるとこだった。

 あわあわする私の横で鶴見中尉は、
「私が以前に食べさせた中華料理を言い間違えたのだろう。
 旭川で落ち着いたら、食べに連れて行ってやりなさい」
「そうだったのですか! 梢。中華料理店も追加だ。いっぱい食べるのだぞ!」
「はい……ありがとう、ございます……」

 しかも鶴見中尉にフォローされるとか!

 目ぇキラキラしてますな、中尉殿。何だかんだで未だに私の世界に興味津々のようだ。
 後で色々聞かれそうだなあ。

 頭痛が痛い私でありました。

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