【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
…………
半時間後。
私は岩の上に座り、真っ青であった。
「すみません、ご迷惑を」
あれからしばらく普通に歩いてたが、急にめまいがして歩けなくなった。
先日まで入院生活。野宿。昨日の昼からほぼ絶食。その上で山道。ひ弱な身体に直撃したのかも。
「梢、大丈夫か。しっかりしろ!!」
鯉登少尉はオロオロ。
一方鶴見中尉は私の前に片膝ついて、私の容態を確認する。
「ふらつきに目まい、発熱もあるな。喉が渇くのだな?」
私はこくんとした。
どうやら私は軽い脱水症状になりかけてるらしい。
「ならばすぐ水を!」
慌てて川に走ろうとする鯉登少尉。けど中尉は、
「落ち着け鯉登少尉。この状態では腹を下すかもしれん」
生水で下痢でもして脱水が加速すれば、最悪命に関わるもんね。
なら水を煮沸消毒すればいいんだけど、敵の残党が山中に潜んでいるかもしれないから、焚き火は出来ない。合流が先だ。
「梢。もう少し我慢出来るかね」
鶴見中尉に聞かれ、私はうなずいた。頭を撫でられる。
「良い子だ――よし鯉登。梢をおぶっていけ」
「はっ! ほら梢!」
即座に鯉登少尉が私に背を向けしゃがむ。
「え?」
私は戸惑った。
「ここで待ってますんで、後ほど迎えに来ていただければ――」
「何を言うか、馬鹿者!!」
「そうだぞ、梢。ヒグマが出てきたらどうするんだ」
……鯉登少尉は普通に心配してくれてるっぽいけど、鶴見中尉は逃亡警戒だな。
この状況で逃げる気はないし逃げられませんて。
「ではよろしくお願いします」
これ以上グズっても迷惑をかけるだけなので、仕方なく甘えることにした。
少尉殿の負担を軽減すべく、首筋にしっかり腕を回す。胸が背中にもろにあたるが、こんな状況でそんな心配は失礼だ。遠慮せず密着させた。
「っ!!」
鯉登少尉がビクッとなった。
「すみません。どこか苦しいですか?」
「い、いや、思ったより軽いのだな」
えらく上ずった返答があった。
なにがしか気を遣われてるのかと、鶴見中尉を見るが、あごひげ撫でつけニヤニヤしているだけであった。何か腹立つ!
「音之進様、本当に大丈夫ですか?」
「あ、ああ!! 気にするな、馬鹿者!!」
なぜ罵倒されねばならんのですか。