【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
鯉登少尉の視線に気づき、ハッとする。
やばい、まだ鶴見中尉の軍服つかんだままだった。
子供みたいなとこ見られて、赤面し手を離した。
「……まあ、とにかく無事で良かった。梢」
鯉登少尉のテンションがちょっと下がった。
そういえばちょっと気まずかったんだ、私たち。
「それで鯉登少尉。他の者たちは?」
「はっ! 申し訳ありません!」
鶴見中尉に報告を促され、鯉登少尉は慌てて背筋を正した。
…………
…………
「こっちだ! 足下に注意するのだぞ、梢!」
鯉登少尉たちはどうにか賊を蹴散らし、今朝から複数に分かれて私たちを探していたらしい。
これから合流地点に移動するのだそうな。
鯉登少尉は意気揚々と川辺の細道を行く。大げさなほどに周囲を確認し、
「鶴見中尉殿、こちらです! 私がお守りしますからご安心を!!」
でっかく手を振ってくる。
「うむ。頼んだぞ」
「は!!」
危なっかしいなあ。大好きな鶴見中尉と一緒だからかな。
鯉登少尉の張り切り具合がウザ……ゴホン!ものすごい。
「うわ!!」
「おっと」
足下をよく見ておらず、転びかけたのを鶴見中尉に支えられた。
「気をつけなさい。梢」
「す、すみません」
私に鯉登少尉をウザいと思う筋合いはございませんでしたぁ!
だいたい、私がいなかったら二人はもっと先に進めたのだ。
二人とも一言も言わないけど、私の体力を考慮して安全で緩やかな道を選んでくれてるんですよ!
「梢。汗をかいている。これを使え」
いつ移動してきた鯉登少尉。使えってか、差し出してきたそれ、私のハンカチじゃないか! 返せ私のハリネズミちゃん!!
「いえいえ、これ使いますから」
私は懐から取り出したハンケチで汗を拭き――凍りつく。
「すすすすみません! 鶴見中尉様!!」
これ中尉にお借りしたやつ! 老舗店のものと思しき高級ハンカチ!!
大慌てで頭を上下スイングする私に、鶴見中尉は笑って、
「もちろん拭くために渡したのだ。それは梢にあげよう」
「いえいえいえ! 洗ってお返しします!!」
にぎやかな川べりであった。だが。
「鶴見中尉殿が梢に……?」
鯉登少尉の声が、また暗くなった気がした。