【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
そういうわけで、第七師団の人たちと合流したいなーというところであるが。
「誰か来たようだな。梢、隠れるぞ。
昨晩の焚き火の煙から、位置を特定されていたのだろう」
鶴見中尉殿は落ち着いて銃を抜き、離れた笹藪の中に私を引き入れる。
マジか。銃撃戦怖いっす。
「身体を伏せ決して動かないように」
「はい」
答えると口に人差し指当てられた。『しー』って。理不尽な。
そして黙り込んで何分もしないうちに、人の気配がした。
私はぎゅっと鶴見中尉の軍服の裾を握る。
いや、握っちゃあかんだろ。
でも何かにすがらずにいられなかったし、中尉殿もとがめないので、つい握りっぱなしになる。
そして誰かが河原に来た。しかし足音大きいな。
走ってる。ものすごく急いで。必死さがある。
ほどなくして焚き火跡を見つけたらしい。
敵だったらどうしよう。鶴見中尉だけは逃がさねば。いや逃げる前に充電器返せ。
でも私捕まったらどうしよう。人道的に扱ってもらえるとは限らないし。
いやー。怖いー。
そしてビクビクしていると、辺り一帯に響き渡る大声がした。
「鶴見中尉殿ー!! 梢ー!!」
でっかいこだま。
遠くまで響いたなあ、鯉登少尉の大声。
「鶴見中尉殿!! どこにおられますか!! 鶴見中尉殿ぉー!! 梢ー!!」
川辺の少尉殿、必死である。
しかしあんまり大声なのでこのままでは敵も呼び寄せかねない。
鶴見中尉も仕方ないなあという感じで立ち上がる。
「鯉登少尉。聞こえているから、そんなに大声を出すな」
そう言って私を伴い、とっとと河原の方に下りていった。
そして鯉登少尉の視界に私たちがうつる。
「…………!!」
見開かれた瞳がみるみる涙でうるむ。
さながら長い放浪の末に、飼い主と巡り会えた忠犬。生き別れた恋人に再会した婚約者。
私たちがバラバラになって、まだ一日も経っちゃいないが。
「鶴見中尉殿ぉー!!」
一瞬、鯉登少尉がマジで上官に抱きつくんじゃないかと思った。
だが彼は寸前で立ち止まり敬礼する。
「お探し致しました。ご無事をお喜び申し上げます、鶴見中尉殿!」
「うむ」
「梢も怖かったな……ん?」
鯉登少尉の視線に気づき、ハッとする。