【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
鶴見中尉は明らかに悪意ある笑顔であった。
「気にすることはない。梢。昨晩の素晴らしい時間のことは口外はしない。私と君だけの秘密にしよう」
口外されてたまるか!! 甘い雰囲気出すな!! あれ、半強制だったでしょうが!!
あんなこともこんなことも私にさせておいて!!
……うん。その、何というか押し切られた。
その前からもう精神的に負けてるようなもんだったし。
ただその後は……堕とされた。
さすが大人というかテクがハンパなかった。
すみません!! どうか詳細は差し控えさせて下さい!!
言い様のない羞恥心に悶え、返事も出来ないでいると、鶴見中尉が後ろからそっと抱きしめる。
「無垢な少女に見えて、やはり君は『女』だな。
今、自分がどれだけ艶めかしい気だるさを醸し出しているか分かっているかね?」
知らんわ!! 寝起きでボーッとしているだけなのを官能的に言い換えるな!!
「お腹、すきましたね」
肘で押して色気のないことを言う。鶴見中尉も顎を撫で引き下がった。
「ふむ。何か獲ってあげたいところだが、私は尾形百之助のような狙撃手ではないからね。
師団の者たちと合流するまで待っていなさい」
何で尾形さんの名前を出す……。
まああの男なら『ちょっと待ってろ』と言ってどっか行って、半時間で鳥だのウサギだのを当たり前に獲って帰る男だったが。
……そして私が褒めるのを待っていた。視線で圧力をかけながら、超待っていた。
私がたまに料理の準備に忙しくて、褒めるのを忘れると超すねる。
というか私に背を向けてフードをかぶり肩を落としている。
それに気づいた私は大いに反省する。そして功労者を全力で賞賛すべく『尾形さん、偉い! よーしよしよし!!』と頭を撫でくりまわし、なぜか猛烈な反撃を食らっていた。
ちなみに上記の状況に突入した場合、七割の確率でそのまま押し倒され私が『朝ご飯にされる』のだった。
尾形さん、元気かな……。
「梢?」
「うおわ!!」
鶴見中尉にのぞきこまれ、ビクッとした。
う、うん。大丈夫大丈夫。
「使いなさい」
「え? あ、どうも」
ヤバい。男の人にハンカチを差し出されるとか!!
そして気づいた。
自分が泣いていたことに。