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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



 鶴見中尉の顔が近づいてくる。そして耳元で悪魔のささやき声がする。

「君には私が必要だ」

 そう言って唇を重ねられる。
 私は動けなかった。舌をぬるりと入れられて、口の中を嬲られても、何も出来なかった。

 耳元で声がする。

「君は迫られたら拒めない。不安だから、そこにある温もりにすがってしまうのだ。
 そうして頼られた男たちは、君を見捨てることが出来ない。君は魔性だな」

 そうだろうか。
 月島さんは忘れかけてるし、尾形さんも普通に逃げて戻らないし。
 ……自分で逃げろと言っといて、未だに根に持ってるなあ私。

 しかし『不安』という指摘は当たっている気がした。

 結局のとこ明治では完全にぼっちで不安なことが、私が令和に戻りたい最大の理由だ。

 何度も命の危険にさらされたトラウマもある。
 いつも戦々恐々で張り詰めているとこはあったと思う。
 それが、『隙』に見えてしまったんだろう。
 一部の殿方には。

「大丈夫だ、梢。私のそばにいれば守ってやれる」

 鎖骨に舌を這わされながらも視線はそらす。
 抵抗出来ないから抵抗しないのであって、あなたの言葉に屈したわけではないと。
 しかし彼は胸もとをはだけながら、

「良い子だ」

 この悪魔にとっては、抵抗がなければ同意の証らしい。
 キスされる気配を感じ、私はもう一度目を閉じた。

 …………

 …………

 …………

 ちゅんちゅんと鳥が鳴いている。木の枝の間から朝の光が降り注ぐ。
 あー、よく寝たぁ。

「――はっ!!」

 目を開ける。起き上がると、かけられた軍服の上着がずり落ちた。

「梢。おはよう」
「おはようございます」

 鶴見中尉は私に背を向け、額当てをちょうど装着されたところだった。
 どうやら先に起きて額当ての洗浄、消毒をしていた模様。
 タッチの差だったか。額当ての下を見たかったような、見なくて良かったような。

「あ、これ、どうもでした」

 寝ぼけながら大切な軍服をお返しする。鶴見中尉殿はうなずき、さっそうと羽織られる。
 まだ覚醒しきらない頭でそれを見ていると、

「ん?」

 かがんでキスをされた。

 …………はっ。

 思い出した。昨晩。鶴見中尉に――。

 うわあああああああ!!

 猛烈な自己嫌悪に陥り、頭を抱え、ガタガタと震えた。

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