【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
焚き火の明かりの中に、鶴見中尉の痛々しい傷跡が浮かび上がる。
一瞬ゾッとしてしまった。
い、いや傷跡にドン引いた、とかそういうわけじゃない。
何というか……死に神に凝視された気がしたのだ。
失礼すぎて本人には言えないけど。
「は、はあどうぞ。答えられるものなら。どうせ分からないと思いますけどね」
「ありがとう。なら――私が想像するに、これは蓄電器ではないかね?」
「…………」
マジか。何かしらのオモチャだと言うと思ったのに。
呆然と言葉を失っている私に、鶴見中尉はしてやったりと笑っている。
「こればかりは勘だよ、梢。水車にしろ車輪にしろ、何かを回すとは動力を生み出すことだ。
これを回しながら考えていた。もしやこれは、私が回す力を電気の力に変換するものではないかと。だとすると、この黒い板の存在は――」
「いやもういいから! 私の負けですから!!」
このまま放置したら太陽光発電まで推理されかねん。
あと若干のドヤ顔が腹立つ!!
「返してったら!」
「おや正解したのにご褒美はないのかね? 寂しいな」
「いやふざけてないで!」
背中から手を伸ばし、じたばたするが、むろん取れない。
そのうちに私はバランスを失った。
「わっ!」
ドサッと背中から落ちたけど、さっき集めた柔らかな葉が受け止めてくれた。
慌てて起き上がろうとするが、
「ん?」
起き上がれない。それもそのはずだ。
鶴見中尉が覆い被さり、両手首を押さえているからだ。
「あの……動けない、です」
状況が分からないワケがないのに、わざと分からないフリをする。
「梢。私は君を不安にさせたりはしない」
突然そう言われた。
「何ですか、いきなり」
「不安そうな顔をしている。男が放っておけない顔だ」
口説かれているというよりは、死に神に鎌でも突きつけられている気がした。
冷たい汗が流れ落ちる。
いつかの夜と違い、今度は都合の良い助けは無い。
「君が私のそばにいるのなら、誰と関係を持とうと気にしない。君を捨てたりはしない」
跳ね返せ、罵声を浴びせろ、と頭が命じるが、身体が動かない。
「ご褒美をくれないか。梢」
心臓がばくばく言っている。だけどどんなに力を入れても、手首を動かせなかった。