【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
あんだけ前振りして何も無し!?
「そんな! あなたに正体がバレたら、どこかの地下牢に連れて行かれ頭から鉄仮面を被せられ、情報を全て吐くまで電気ショックで身の毛もよだつ拷問をされるものとばかり!!」
「君が私に対し、どういった印象を抱いていたかはよく分かった。それと電気を拷問に使用するという発想は参考になる。
君のいる時代ではそういった拷問をするのだな」
しねえよ! 拷問自体が違法だよ!!
……あかん。うかつにツッコミを入れただけでも未来が狂いかねん。
もうしゃべるまいと、お口に手を当てていると、
「梢、梢。そう怖がらなくてもいい。
君について知りたいと思うのは、私個人の好奇心で、その知識を利用しようとは思わない」
「……何でです?」
お口から手を離して聞くと、
「興味深くはあるが、実用的とは言いがたいからだよ」
「へ?」
まあ、その後の鶴見中尉の説明をかいつまんで言うと『私が来た時代は未来すぎる』ということだ。
物事は何にでも順序がある。
プラスチック製品一つを普及させるまでには、合成樹脂の発明だったり原材料の確保だったり大量生産を可能にする工場建設だったり、山のような関門がある。
しかも日露戦争後の日本は資金不足かつ資源不足。
私から『将来コレがはやるよ~』みたいなアイデアをもらっても活用しようがないのだそうな。
ドラえもんのひみつ道具を『現代日本で作ってやろう』と考える人がいないのと同じ理屈ですな。
「では、今後この世界にどんな戦争や災害が起こるかという歴史的な知識の利用は……」
「それも当てにはならない。君の世界とこの時代は必ずしも地続きとは限らないからだ」
「へ?」
「考えてもみなさい。もし歴史が完全な一本道だとしたら、君がこちらで何かするたび、君がいた世界が重大な改変を受けているはずだ。
だが今のところ、各人の記憶に若干の消失や混乱が生じている以外に変化はないのだろう?」
それは……考えたことがなかった。
思わぬ指摘に呆然としていると、
「だから安心しなさい。私が君を気にかけるのは、計算ではなく可愛らしい友人を案じてのことだ。
君が完全に天涯孤独と分かった以上、これからも十分な支援をさせてもらいたい」
鶴見中尉は笑顔である。
……信用していいの?