【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
鶴見中尉が熱心にハンドルを巻くものだから、充電インジケータは四個中三個が点灯してる。
それを見て中尉殿はちょっと嬉しそうだ。
「まあさすがに、最初から完全な確信に至ったわけでは無いがね」
最初に会ったとき。私はあまりにも変な格好だったから、取り調べを受けたのだ。
「服装は、その人間の帰属と社会的地位を推し量る指標だ。
だがそのときの君の格好は、私が知る一切のものに当てはまらなかった」
ダウンジャケットにデニムのジーンズにスノーブーツだもんね。
「今まで見たこともない、だが既存品と比較すべくもない素晴らしい素材。
私は思った――まるでこの少女は未来の世界から来たようだと!」
「…………」
とはいえ、あまりにも突飛な考えだ。さしもの鶴見中尉殿も、そんな『超常現象』を信じるには時間がかかったそうな。
時々会う私の、浮世離れした言動を分析しつつ『華族の妾の娘』とか『武器会社の社長令嬢』とか『世捨て人の天才少女』とか色んな可能性を検討していたようだ。
私が未来人だと完全に認めたのは、つい最近。
私が西洋人に売った『遺品』や、山で処分した品の燃え残りを回収。
慎重に検証し、全てが『この時代では到底作り得ない高度技術品』であると断定。
私が未来の時代から来たと確信したそうな。
「で、でも未来なのに年代まで推測とかすごいですね」
「”カワウソ”だ」
「カワウソ?」
「君の言動と態度から、君のいた時代にはカワウソは絶滅したものと推測した」
あの何気ない会話から……。
「一つの種が、完全な絶滅に至るまでには一定の時間がかかる。
よって『最低でも五十年』と見積もったまでだ。
まあ君の持ち物の技術精度を加味すれば、君の来た年代はさらに先となるだろう。七十、八十……あるいは百年以上」
正解です……。
ダメだ。もう勝てない。完全敗北。歴史変わるー。
私はがっくり肩を落とした。
「で、私にこれから何をさせたいんですか?」
「ん? 別に何も。ただ私の考えが合っているかどうか、確かめたかっただけだよ」
「は?」
「本当だとも。君の存在は公にせず『遺品』を中央に提出することもない。安心なさい」
私はたっぷり一分は沈黙し。
「はああああああ!?」
大声を出したのであった。