【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
「ぬくぬく〜」
火の明るさと暖かさがこんなにありがたい物だったとは。
「梢」
「ありがとうございます」
たまたま持ってた平たいあんパンを半分こしてくれた。ううう。糖分が強烈に胃にしみ渡る。
しかしすごいな鶴見中尉。松の枝葉を利用しあっという間に、火をおこしてくれた。
いまだにマッチ無しにたき火をおこせない私は、その手際の良さに舌を巻くしかない。
火をおこして敵に見つからないか心配だった。けど、尾根側から探しても上手く隠れるような地形を選んでるみたい。
夜にそういう場所を素早く見つけるとか、やっぱすごい。
「でも襲撃犯は誰なんですかね?」
尾形さんたちがこっちに戻ってくるワケないし、土方さんたちならもう少しスマートにやるだろう。
「我々の敵は山ほどいる。まあ統制の取れていない素人連中だ。例の西洋人の雇った連中か、金塊目当てのごろつきか。
いずれにせよ鯉登たちの敵ではない。明日には合流出来るだろう」
すごいな。でも信頼というよりは、淡々とデータに基づき予測をしてるような。
目が合うと笑いかけてくる。でもやっぱ怖いなあ。
「はああ〜身体があたたまりますですね」
お湯を飲んでほっこり。
川の水を端切れで濾過(ろか)し沸騰(ふっとう)してもらったのだ。
「茶葉でもあれば良かったのだがな」
「さすがにそれは無理ですよ〜」
遭難してるはずなんだけど、鶴見中尉のサバイバル能力高すぎて危機感ゼロである。
「うう……」
安心したら眠くなってきた。いやでも、私だけこてんと寝るのはさすがに……。
「梢。私に構わず眠たいときは寝ていなさい。明日はどれだけ歩くか分からない。体力は温存すべきだ」
鶴見中尉はもう少し起きて夜襲を警戒するらしい。
懐から『何か』取り出して手に乗せグルグルとハンドルを巻き出す。
何だろ?……ま、いいか。
寝る前にもう一口飲んでおこうと、お湯を口にふくむ。
すると鶴見中尉は『何か』をぐるぐる巻きながら、
「そういえば梢。一度確認しようと思っていた。
君の来た時代だが、五十から百五十年後の範囲内を見積もっている。
この推測であっているかね?」
『何か』――端の焦げた災害用充電器を巻きながら。
返事の代わりに、私は盛大にお湯を噴き出したのであった。