【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
んで、鶴見中尉は周囲を確認しながら川沿いを慎重に進み、
「あのエゾマツの下で休むとしよう」
と大木を指す。
すごいな北海道の原生林。こんなデカい木が普通に生えてるのかってくらいデカい。
鶴見中尉は私に、
「梢。下に敷き詰める葉を集めてくれ。私から離れすぎないように」
「はいです」
寝床作りは尾形さんやインカラマッさんともやったから、慣れたもんだ。
私は近くに手近な低木を見つけ、お借りした短刀で柔らかな葉を採集する。
『松明(たいまつ)』って言葉もある通り、松は樹脂が多く火をおこしやすい。雨風にも強い。
そして前方は敵や獣の接近に気づきやすく、水の確保も出来る川。
何も考えず歩いてるように見えたけど、ちゃんと考えてるんだなあ。
うわっと。葉を集めている間に川に近づいていたらしい。滑りそうになった。
「…………!」
顔を上げ、キラキラした川の美しさに胸を打たれる。
月明かりや星を反射し、青く波打っている。
「ん?」
そのとき、岩の上に何かいるのが見えた。
「わ!!」
パシャンと水音。何かが川に飛び込んだ!
わたくし、葉を両手に抱えてうろたえ、
「なななな何すか、クマですか!? ヒグマなんですか、鶴見様!」
冷静に考えりゃそんなワケがないのだが、パニックでつい『保護者』にすがる。
鶴見中尉は松の枝葉を集め、火をおこす準備をしながら、
「落ち着きなさい、梢。ただのカワウソだ」
私の頭をなでなでする。
「あー、何だ、ただのカワウソですか、ビックリしたあ」
……カワウソ?
「カワウソ!? カワウソって、あのニホンカワウソですか!?」
カッパのモデルになるほど、かつてはありふれた動物であったカワウソ。
だがこの時期に毛皮需要で乱獲され、日本から急速に姿を消していく。
「そうだよ?」
つかみかからんばかりの私の反応に、じーっと私を見る中尉殿。
「もっとよく見ておけば良かった~」
私はこぶし握って悔しがる。
「ふむ。君のいた場所ではカワウソは姿を消しているのかね?」
私から受け取った葉っぱを地面に敷き詰める中尉。
私も慌ててお手伝いしながら、
「え? あ、はい。猟師が毛皮目当てに狩りつくして……」
鶴見中尉の言葉に一瞬引っかかったが、疲れもあって適当に流したのだった。