【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
ものっすごく苦手な鶴見中尉と一緒の馬に乗ることになった。
そもそも小樽帰還組だと思ってた鶴見中尉が、旭川に行くこと自体が想定外だ!!
……でもどうやら、私が原因らしい。
第七師団の実質的な支配者っぽい鶴見中尉だが、中尉は中尉。
一応、上司にあたる人が旭川にいるんだそうだ。
その人に形だけ挨拶をして私を任せ、小樽に戻るらしい。
それはそれとして、何で私が鶴見中尉の馬に。
……まあ偉い人ほど丈夫な良い馬に乗ってるし、守りやすい位置というのもあるんだろう。
しかしこの人との間にろくな思い出はない。よって精神的な抵抗は凄まじい。
「い、いや、でもちょっと待って。もうちょっと待って下さい。いや、もう一回深呼吸しますから!! 深呼吸には心を落ち着ける効果があるから! 本当ですから!!」
端的に言えば、私はグズっておった。
「そう言って、じき半時間になりますが。旅程というものもありますから、勇気を出して下さい」
と、冷酷な鬼軍曹。勇気を出せというか『とっとと乗れ』という本音がダダ漏れである。
こいつ! 本当に夜明けの光を見ながら私を口説いた男と同一人物なのか!?
いや、だからこそ冷たい演技なのかもしれないが!!
「梢。早くしなさい。ほら怖くないから、私の手につかまって」
と鶴見中尉も馬上から促してくる。馬じゃなくて、あなたが怖いの!
ちなみに他の皆さんはもちろん準備万端なため、私だけワガママ言ってる感じになってすっごく恥ずかしい。
ちなみに目で月島さんに助けを求めたりしたが『耐えなさい』と返された。
うう。どんな弱みを握られてるか知らんが、月島さんは私なんぞより鶴見中尉優先なのだ。
「鶴見中尉殿、では持ち上げます」
「わかった」
「え!?」
何をする気なのかと思ったら、月島さんがいきなり私の両脇に手を突っ込んだ。
え!? 何!? ハグ!? そんな! こんな大勢の人前で!!
と、パニクっていると、
「せーの!」
上に投げた!! 月島軍曹、『高い高い』の要領で女一人を宙に放り投げた!!
牛山さんか、あんた!! ちっさいくせに!!
「よし」
泡食ってると、鶴見中尉が私をパシッと抱き留め、後ろに横座りさせる。
流れるような連携作業であっという間に、私は馬上にいた。
ええー……。