【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
「きっかけがあれば思い出せる。思い出してみせる。もう決して忘れません」
力強く言って、私を抱擁する。なので私も、
「ちなみに私の理想は電車ですれ違うとき、相手の顔を見て思い出す感じのやつです」
「電車? 梢さんは外国に行かれたことがあるのですか?」
「あ……はは……」
ネタが通じないのは当然として、やっぱ忘れてるじゃないですか。私が他の時空から来たってこと。
でも野暮なことは口にせず、口づけに応じたのであった。
…………
で。かくして旭川へ出発となったのである。
「梢。大丈夫かね」
顔色の悪い私に、ぱたぱたと鶴見中尉が目の前で手を上下さす。
「すみませんです」
あくびをかみ殺しながら目をしぱしぱ。
出発前なので、第七師団の皆さんが荷物をまとめ馬を連れて集まっておられる。
皆さん、何やかんやの作戦を終え、これから『旭川行き』組と『小樽帰還』組に分かれるのだそうな。
ちなみに徹夜の元凶であるクソ軍人は、鶴見中尉の後ろで素知らぬ顔である。
すごいな職業軍人! 疲れた様子が見えないんですが!!
だがプロと違い、顔に出る若造もいた。
「鯉登少尉もどうした? 昨日はあんなに張り切っていたではないか」
「は! 申し訳ありません、鶴見中尉殿!!」
慌てて敬礼する鯉登少尉。だが私と目が合うとすぐそらした。
……すっごい気まずい。
やっぱ昨晩のは幻覚でも幽霊でもなかったらしい。鯉登少尉は憔悴したお顔だった。
いつもみたいに私や鶴見中尉にべたべたせず、どんよりしている。
い、胃がキリキリと!!
……しかし彼からの好意が重かったのは事実。
彼の幻想が崩れ安堵したいが、代償は多大な罪悪感だった。
「……梢」
私の顔色に気づき、鯉登少尉が何か言いかけるが、月島軍曹が、
「鶴見中尉殿。梢さんは誰がお連れするのですか?」
何の話かって? 誰が私を馬に乗せてくかって話だ。
私は馬がダメ。馬ってすごい人を見るんですよ。夕張に行くとき乗ってったクソ馬は、私をなめくさって遭難の遠因になった。
あれ以来、馬はトラウマである。一人で乗るとか絶対無理!
「そうだな。では私の馬に乗せよう」
鶴見中尉が言う。
私はふーんとそれを聞いていた。
……え?