【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
ちなみに夕張にいたとき、私は色々あって月島さんに半殺しにあった。いや半殺しというか九割、いやほぼ殺されてた。
たださすがの鬼軍曹も、民間人少女の殺害にためらいがあったらしい。冷静さを欠き、弾切れに気づかなかった。
おかげで私の頭に銃口突きつけ、引き金を引くとこまで行ったのに、私は今生きている。
……そんだけやらかし普通なら殺人未遂で警察沙汰なのだが、鶴見中尉に速攻でうやむやにされた。
おかげで『その詫びをする』という名目で鶴見中尉に色々ちょっかいを出されてるのだ。
「月島さーん……?」
私に恐ろしいことを言った後、数秒沈黙した月島さん。私は彼に、恐る恐る声をかけた。
「あ、ああ、すみません……少し考え事を」
月島さんはハッとして『こちら』に戻ってきた。
「はあ」
何か一瞬、とてつもなく邪悪な気を感じたが、あまり考えないことにした。
う、うん。さっきのはちょっと怖いジョークだよね。うん!
「まあ現実のあなたは、あそこまで抵抗することはないか。むしろ喜びそうだし……」
私に口づけながら謎の述懐をする月島さん。
いや、何でちょっと残念そうに言うんです。
あとサッパリ分からないながら、ディスられてる気がっ!!
それはそれとして、逃げるのはもう無理ゲーっぽい。
「もう、俺のつけた傷は全て消えてしまったか」
どこか残念そうに、私の裸の背に口づける月島軍曹殿。現代医療技術万歳。
彼は私を横たえながら、
「あのときも……俺に全てを頼っていたあなたが、だんだんとそうでは無くなるのが嫌だった」
まだ言ってるよ月島さん。まともそうな人に見えて、意外と闇が深いんだよなあ。
療養の後半は、時々襲ってきてたし。
「……っ、ん……っ……」
と思っていると、うつぶせでベッドに押さえつけられる。
「梢さん……っ……」
それは愛おしそうに名を呼ばれ、背中に口づけをされた。
しかし重い。動けぬ。
「月島さん、ダメですって……」
ふうっとため息をつき、なだめながら枕をつかんだとき。
……?
視線を感じた気がした。
顔を上げる。
ほんの少しだけ扉が開いていた。
そこからのぞいていた人と、一瞬だけ目が合った。
鯉登少尉。
手に持った花が見えた。
でもたった一瞬だけ。
音も無く扉は閉まった。