【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
前略。月島さんに、百年後の世界に送り返してもらえなくなりました。あと押し倒されてます。
待って待って待って。ワケ分からない。何でこういう展開になるの?
場所考えろや。ここ、夜の病院だっての。
「すみません、梢さん……」
「…………」
何やら思い詰めた感じの月島さん。私はほだされ、ぽんぽんと彼の背を叩く。
「いえそういうワケに行きません。あと、尾形さん関係なく所用で行かねばならん場所が出来ましたので、このまま見逃して頂けると大変に僥倖――」
すると月島軍曹はフッと笑い、
「また別の男が出来たのですか? あいにくだが、行かせるわけにはいかない」
待てやコラ。
「あなたが貞操観念に深刻な病を抱えていることは存じています」
いや存じるなよ。私が複数男性と平気で関係を持っているのはですね。
明治と令和で男女の倫理観が少々違うというだけの話で――いや、百年後でもボコボコにされてますよね、私みたいなの。
「男に会わせるわけには行かない。あなたには明日の出発までここに居ていただく」
「待って待って月島さん」
男に会うわけじゃ――いや網走監獄で何とか財団のエージェントに会う予定だが、説明不可能だし!!
猛烈に誤解を解きたいが、それは後だ。
「落ち着いて落ち着いて」
「俺は落ち着いています」
いや嘘つけ。私はどうどうと、己を組み伏せる男性を押し上げようとするが、頑強な肉体はビクともしない。
小柄だけど腹筋バキバキなんすよね、月島軍曹。
「夜の巡回とか来るかも……」
恥ずかしい♡と媚びを含んだ笑みを見せてはみるが、
「賊の侵入情報があり、第七師団側で警備するので巡回不要との通達はしております」
と、頬を撫でられた。
無駄に根回ししてやがる!
……やっぱ、裏にいるのはいつも通り、鶴見中尉か?
月島さんが任務中に堂々とコトに及ぼうとするということは、多分『許可』が出ているんだろうし。
私を明日まで逃がさず留めておきたい。同時に月島軍曹には日頃の忠義へのご褒美を。一石二鳥、みたいな。
もしそうなら、外道というか最低最悪の策士という他ないが。
「…………」
もう一度、私たちの唇が重なる。抵抗はしない。
ここまで舐められながら、特に何も感じてない私自身も、病的なのかもしれない。