【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
鯉登少尉始め、その場にいた軍人さんが全員、私を凝視してた。
責められているわけではないのに、針のむしろに座らされている思いだった。
一時は後悔したが、やっぱ尾形さんに預けて正解だった。
あのスマホは今、充電が切れて本当にタダの板になってる。
だが、やはり存在そのものが危険だ。
スマホが燃えたこと、鶴見中尉は絶対に信じてないだろう。
機能はバレなかったとしても、分解されたらどうなるか。
「すぐ出発しないと」
私は今、病室でスニーカーの紐を締め決意する。
方針変更だ。
月島さんに元の時代に返してもらう?
インカラマッさんを探す?
両方とも却下だ。
やはりスマホをこの時代に置いたまま帰れない。
私は網走監獄に向かう。
スマホに来ていたあのメッセージは間違いなく未来からのものだ。もう怖いなんて言ってられない。頼らないと。
タイムパトロールかS○P財団のエージェントか知らないが、彼らは私の最後の味方だ。そう思いたい。
尾形さんにスマホを返してもらい、迎えに来た人たちと一緒に戻る。
そしてあの庭を永久に封じてもらう。
それで、この物語は終わり。
危険な明治時代とも、ここで知り合った人たちとも永久にお別れだ。
「あとは、このベッドの下の袋を……」
私はしゃがみ、ベッドの下に手を伸ばす。
私が今まで、優雅に刺繍(ししゅう)だけしていたと思いまして?
ちゃーんと、旅のための道具を色々ため込んでいたからね!
どうやって?
……モテるんです私。
うん。声を大にして繰り返そう。私はマジでモテる。
モテ期とかそういうレベルじゃなく、求婚だけなら五回はされた。
なぜなら第七師団は男所帯。そこに、うら若き華族のご令嬢が来たらどうなるか。
『ご苦労様です』と微笑んだだけで顔を真っ赤にされるとか、人生初めての経験だったぞ。
そういうわけで彼らに『快く』ご協力いただき旅の物資を集めたのだ。
が。
「あ、あれ……? あれ?」
だが今。どれだけガサゴソしても、ベッドの下には何もない。
「仕方ない。なら――」
「あちこちに荷物を分散させていたようですが、全て回収させてもらいました」
後ろから静かな声がした。
「…………」
私はゆっくり振り向く。
月島軍曹がいた。