【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
「うわあ、遅くなった~」
窓の外は真っ暗だ。私は大慌てで、個室のベッドに駆け寄る。
あの後、外に出て鶴見中尉殿や鯉登少尉たちと料亭でお食事になり、病院に帰ってきたら夜更けになっていた。
「『これ』を返してもらえて良かったけど……し、死ぬかと思った」
私は風呂敷包みを解く。中には、捕まったときに取られた洋服と靴が入っていた。
相当調べられた跡がある。タグを切り取っといて良かった。
……ちゃんと洗濯してあるんだろうな?
そう思いながら、服を着替えた。
食事会は拷問だった。
食事会とは名ばかりの鶴見中尉直々の追及。精神的な拷問以外の何ものでもなかった。
……しかし追及したくなる気持ちも分からないでもない。
リュックは燃やしたが、衣類と靴だけはどうにもならず、私は洋装のまま捕まった。
で、合成繊維の布からプラスチックのボタンからスニーカーのゴムまで。1900年代には存在しない材質か、あったとして完全上位互換。
『どこの国の物かだけでも分からないか』『なぜご親族はこれだけの物を無価値と判断したのか』など、細部にわたり鶴見中尉にツッコミを入れられた。
結局、また最初から最後まで知らぬ存ぜぬで通したものの、冷や汗物だった。
しかも鶴見中尉、私が例の西洋人に売った物を数倍額で買い取っていた。
それらについても聞き取りをされ、寿命が縮まったのは言うまでもない。
そして。
『梢。何よりも君が八万という巨額の値段をつけた”機械の板”。あれは、今どこにあるのかね?』
鶴見中尉にそう言われたとき、喉元にナイフを突きつけられた思いであった。
彼が言ってる『板』とはスマホのことだ。
値段を聞いて、同席してた全員が酒を噴き出すかギョッとして私を見た。
ちなみにこの時代、数万円も出せば大豪邸が建てられる。
『も、燃えちゃって……八万なんて、冗談に決まってるでしょう? は、はは……』
『だが彼は、今もその額を出さなかったことを後悔しているそうだ。
アメリカ人がそう断言するほどの先駆性と機能性。
世界のどこでもあんなものは作り得ない、あんな美しいものは見たことがないと。
どんなものか、是非、私も見てみたい』
鶴見中尉は夢を見るようにうっとりとしていた……。
何か額当てからドロッとしたのが垂れてたが。