【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
そして今。
「何かべちゃっとして不味そう~」
カツ丼の見た目は、二階堂さんに不評である。うっさいわ。
ベッドに座り、妙なヘッドギアをつけた二階堂さん。
その妙な風体もだが、右足の膝下から先がない、というのが痛々しく人目を引く。
地元の抗争に巻き込まれ、刀で右足を切断されたのだという。
何で刀……。色々とツッコミをしたいが、知的な梢さんは、彼らの争いに首を突っ込まないと硬く心に誓っている。早く令和に帰りてぇ。
「うーん……」
どんぶりを持ってみたり、匂いを嗅いだり、見たことのない料理に警戒心たっぷりの二階堂さん。
すると鶴見中尉がもったいぶった調子で、
「いいから食べてみろ。本来なら門外不出の秘伝の調理法だが、華族の令嬢たる梢がおまえのためにわざわざ作ってくれたのだ」
「そ、そう……?」
う、うん。万が一の後世への影響を考慮し、炊事場から人払いをしてもらってまで作りました。
しかしそのせいで、プレミア度が高まってるっぽい。
二階堂さんも恐る恐るといった調子で、そーっとタレたっぷりのカツを口に運ぶ。
――完食まで五分もかからんかった。
鶴見中尉は廊下を歩きながら満足そうだった。
「良かった良かった。食事を取れるくらい元気になれば、いずれ復帰も出来るだろう」
「恐縮です」
片足失えば、現代でも職場復帰は困難だろうに。
まあ鶴見中尉も前頭葉が一部吹っ飛んでるのに、中尉を続けてらっしゃるくらいだからなあ。
「な、なあ梢。さっきの料理は本当に美味そうだったな。後で私にも――」
鯉登少尉は子犬みたいにピョコピョコと、鶴見中尉と私の様子をうかがってる。
そういえば病室でも、うらやましそうに二階堂さんを見てたっけ。
「ダメです。あれはあんまり作らないって決めてるから」
「何故だ!! 月島軍曹には作ったんだろう!?」
「鯉登少尉。声が大きいぞ。他の患者さんに迷惑だ」
しーっと、指を口に当てる鶴見中尉。『はっ』と慌てて姿勢を正す鯉登少尉。
鶴見中尉は、
「梢。身体にもう問題はないようだな」
「ええ。外に出ても大丈夫だと思います」
病室だとヒマでヒマで。
「ならば早急に出発しよう。明日、旭川に向かう」
マジか。
じゃあ今夜にでも逃げないと。