【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第3章 ラッコ鍋(尾形編)
「ラッコの調理法はさすがに出ないかあ……」
かまどの前でスマホをいじり、途方にくれた。
ラッコ。日本にもいたんだ。てか絶滅危惧種やんけ。
尾形さん、いったい北海道のどこで何やってたんだよ!!
「他の動物と同じようにさばけばいいか」
ため息をついた。
あとでちゃんと、毛皮を焼却処分しとかないと。
私は肩を落として、かわいそうなラッコに包丁を入れたのであった。
…………
何だかおかしい。
そう気づいたのはラッコ鍋がそこそこ煮えてきてからであった。
「うーむ……」
囲炉裏の上で、ぐつぐつと鍋が煮えておる。
「偕楽園とかって行ったことありますか? 有名な梅の名所なんですが」
「ねえな。武士か金持ちしか入れん場所だ。第一、行って何するんだよ」
「またそういうこと言う~」
百年前の話を聞きながら、良い感じに鍋が煮えるのを待っていた。
尾形さんはいつもなら言葉少なだが、今日は色々話してくれた。
「んー」
何か、身体がちょっと熱いような……。
鍋の熱で部屋が暖まってきたからかな。
私は綿入り半纏(はんてん)を脱ぐ。
「何ですか?」
尾形さんがやけにジッと見ている気がした。
「いや? 半纏を脱ぐのを眺めるのは不味いか?」
「いえ別に」
言い方がセクハラっぽいなあ。
何だってさっきからジーッと見てくるんだろう。
尾形さん、何か変だ。
一見、いつもと変わらないようだが、呼吸が微妙に荒い。何度か唾液を呑み込む音を聞いた。
大立ち回りの後だったとか? そんなにお腹が空いてたのか?
……にしても熱い。身体もムズムズする気もするし。
はしたないと思いつつ、衿(えり)もとをパタパタやって熱を逃がそうとする。
尾形さんは頬杖ついて、そんな私をジーッと見てる。
「あの……そんなにジロジロ見ないで下さい。尾形さんも熱くないですか? 外套くらい脱いだらどうですか?」
「それもそうだな」
そう言って尾形さんは外套を脱ぐ。
お。軍服だけってのもまた新鮮でカッコいいかも。
「梢こそそんなにジッと見るなよ」
視線に気づき尾形さんがニヤッと笑う。
「み、見てませんよ。あなたが私を見るから!」
「そうか?」
ニヤニヤニヤ。
チェシャ猫ならぬ山猫が笑っている。
妙な雰囲気だった。