【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第3章 ラッコ鍋(尾形編)
ここで見送ったら、尾形さんは二度とこの庭に来ないんじゃ無いか。
そう思ったのだ。
なぜそれが『絶対に嫌』だと、思ってしまったのだろう。
「そ、その……やっぱり上がっていかれませんか? 今日は寒いし、少し火鉢に当たって、身体を温めてからでも」
何で必死に引き留めてんだ、私。
尾形さんはフッと皮肉げに笑い、
「何だ? 鯉登少尉殿のときみたいに歓待してくれるってのか?」
「だからそういう言い方は――その、たまには、お礼がしたいだけですよ。いつも鳥やウサギを持って来ていただいてますから」
「そうかい。じゃ、上がらせてもらうぜ」
お? もっと嫌味を言われるかと思ったがスッと上がってくれた。
良かったあ。
……あれ?
私が尾形さんを怒る展開のはずなのに、何で必死に尾形さんの機嫌取ってんの!?
いや尾形さんが二度と来なくなっても別にいいし!
鯉登少尉や月島さんとだって、おしゃべりするのも楽しいし!!
しかしもう上げてしまった。
それに座敷に上がり、火鉢に手をかざす尾形さんを見てると、何だか心が浮き足立ってくる。
「あ、そういえば頼んでいたお菓子が届いたんですよ。尾形さんは茨城の出だってうかがってたから――」
「メシが食いたい」
「は?」
「メシを食わないでここに来ちまった。何か作ってくれないか?」
「ええ~?」
「何か腹に入れたいだけだ。凝ったもんじゃなくていい。飯代も払う」
「え? いやまあ、いいですけど……」
今日はやけにグイグイ来るなあ。
鯉登少尉のせいか? 私が隠し事をしてるのが気に入らなかったのか?
「簡単かあ……じゃあ、お鍋でいいですか?」
「ああ。頼む」
私にとってどの料理も簡単ではござらぬ!!
だが野菜と肉を切って、まとめて煮込むだけの鍋は、昔基準では簡単な部類に入る!
「じゃあ、囲炉裏(いろり)の火をおこしといてもらえます? 具材を切ってくるんで」
そう言って縁側に出て、さっきいただいた獲物を取る。
ジビエ調理するようになって痛感したが、新鮮な肉の方が断然美味い!
「これ、何の肉ですか?」
尾形さんが持って来た獲物を持ち上げる。
見慣れない……いやある意味、見慣れてはいるが、触るのは人生初である。
尾形さんは火鉢の炭をかきながらサラッと言った。
「ラッコだ」