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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



 月島軍曹が病室に入ってきた。

「面会が長すぎです。そろそろお戻り下さい。梢さんのお身体にも障ります」

「身体に障る? いつでも退院出来ると医師は言ったのだろう?」
 鯉登少尉は露骨に舌打ちした。
「梢にも気晴らしになる。見ろ。暇を持てあまし、私のために豚の手巾を縫っていたくらいだ!」

 と、得意げにハンカチを広げる。
 だから豚じゃなくてハリネズミ言うただろが!
 それとあなたのために縫ったとは一言も言ってないからね!?

 すると月島さんは返事をせず、私の方に向き直り、

「ところで梢さん、鶴見中尉からのご依頼の件について――」
「ああ」

 そう言われて思い出す。旭川行きとは別に、個人的な依頼をされていたんだった。
 横で鯉登少尉が『鶴見中尉殿!?』とわめいてたが、私は面倒で返事をしない(月島さんも)。

「もう起き上がれるから、材料さえ準備していただければいつでも料理出来ますよ」
「それはありがたい。ご無理いただき申し訳ありません」
「いえいえいえ」

 すると鯉登少尉がピタッと口を閉じる。

「梢の料理? 何の話だ?」
 すると月島さんは一瞬だけ、フッと口の端で笑い、

「ああ、少尉殿はご存じありませんか。梢さんには評判の得意料理があるんですよ。
 鶴見中尉殿はそれを聞き、梢さんに頼み事をされたのです」

 すると鯉登少尉はカチンと来たご様子で、

「何だと? おまえは知っている風だな。食べたことがあるのか!?」
 月島軍曹は無表情で、
「ええ。何度も」
「何!? お、おまえが!? 梢の手料理を!?」

 二人の間に火花が散るという、古典的表現が見えた気がした。
 何なのこの人ら。

「…………で、梢。おまえの得意料理というのは何だ?」
 鯉登少尉がハンカチをギギッと噛みながら言う。

 あー!! あー!! ハリネズミちゃんが引きちぎれるだろうが!! やーめーてー!!
 ……叫びたかったが我慢して、私は口を開いた。

 …………

 …………

 数時間後。病室の大部屋にて。

「これ、何?」

 私の目の前に座り、二階堂という人が聞いてきた。

「カツ丼というものらしい。食べて見ろ、二階堂」

 私の横で、なぜかドヤ顔の鶴見中尉殿が言った。


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