【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
しかし、嘘と偶然が積み重なりとんでもないことになった。
もちろんこの時代の女性の地位を考えれば、鶴見中尉には感謝してしたりないことではあるのだが……。
ただ表向きの扱いはどうあれ、私が『脱走兵と共に行動していた要注意人物』であることには変わりない。
現に病室や病院の出入り口には見張りがいて、逃げるに逃げられない状態だ。
「んん? 不安か、梢? だが鶴見中尉殿は、それだけおまえを買って下さっているのだ。おまえもその恩に報いて――」
「は、はは……」
鯉登少尉と楽しくお話をしながら作戦を練る。
まず大前提として『令和に帰り、今度こそ二度と明治に戻らない』。
そのためには、どうすべき?
1.月島さんに頼んで元の世界に返してもらう
2.逃げてインカラマッさんを探す
3.逃げてスマホの謎メールの指示に従い網走監獄へ行く。
どう考えても、今後の行動は『1』一択だ。
ただ、クソ尾形に私のスマホを渡したまんまなんですよなあ。
鶴見中尉にスマホを取られないためだったとはいえ、失敗だったかもしれん。
尾形さんが本当に大金目当てで埋蔵金争奪戦に参加してるのなら、スマホを売ってドロン、で終わりじゃないか。
あああああ! 失敗したあああ!!
……い、いや、もう少し人間を信用しようよ私。
尾形さんのあの真剣なプロポーズ?がウソだったと言うのか? 尾形さんのあの目を思い出せ、私!!
…………やっぱ結婚詐欺にあったのか? 吊り橋効果って言葉もあるしなあ。
「梢、聞いてるのか?」
頭の中でウダウダしてたら、鯉登少尉に不機嫌顔で言われた。
「あ、はいはい聞いてます。先の戦争での鶴見様のご武勇伝のお話ですよね?」
2はそもそもインカラマッさんが今どこにいるか分からない。
となると『3』。網走監獄に行くしかないけど、あの謎メールに従うのも何か不気味で怖い。
結論が出ず悩んでいると鯉登少尉が、
「その話はとっくに終わった! 休暇に青森に行こうという話をしていただろう!」
説教されるのかと思ったが、鯉登少尉は嬉しそうだ。
「はあ。申し訳ありません。でも何で青森に?」
「それはだな! 私の父におまえを――」
「鯉登少尉殿」
冷ややかな声がした。
月島軍曹が病室に入ってきた。