【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
そして何日か過ぎた。
病室の窓の外は、緑がきれいだ。
「うーむ……」
私はチクチクと刺繍(ししゅう)をし、時折出来映えを確かめる。
「こんなもんかなあ」
糸を切れば、ハンカチの完成だ。ふふ。新作のハリネズミ。
少ない色と簡単な図案で出来、多少不格好でも、まあまあ可愛く仕上がってくれるという、ありがたい生き物だ。
「本当はアイヌの文様とかやりたかったけどなあ」
でもアレ、簡単そうですごく難しい。いくら縫い物に慣れてきたといっても、私はまだ初心者に毛が生えたレベル。
今はハンカチで我慢しよう。
「……あー、退屈」
熱はとっくにさがってるのに。
スマホもない、テレビもない、ラジオ放送すらまだの時代だ。
少女雑誌ももらったが、こういうのは良妻賢母を育てる読み物だ。教育的な内容が多いので刺激に欠ける。数回読んで飽きてしまった。
「もう退院出来ると思うンだけど……ん?」
外からバタバタバタと騒々しい足音が聞こえた。
ドアを見ると、
「梢ーっ!!」
うわっ!! ものすごい音を立ててドアが開いた!
鯉登少尉だ!!
ドアも閉めずに一目散に駆け寄り、ガバッと抱きついてきた!!
「梢!! ずっと心配していたぞ!! 尾形百之助にヒドい目に遭わされたそうだな!! だがもう大丈夫だ!! 何も心配はいらない!!」
痛ぇ!! 力任せに抱きつくな!! まだ針をしまってないんだ、危ないでしょうが!!
すると鯉登少尉は私の作ってたハンカチを見、
「ん? 何だ? 手巾を作っていたのか? ようやくおまえも女らしくなってきたな!!」
大きなお世話だ!!
「それで何を縫っていた? 豚か? これは」
相変わらず、距離が近いなあ。私が無一文になってるとか尾形さんと旅をしたとか知ってるはずなのに、以前と変わらずぐいぐい来る。
私はコホンと咳払いし、新作のハンカチをお披露目する。
「これはハリネズミですよ、音之進様。ピグミーヘッジホッグ。外国に生息する、針の生えたモグラです」
「おお! それなら知っている! 英国の本に載っていた!」
「え? ご存じなんですか?」
離れていた距離なんか無かったかのように、普通に話すことが出来た。