【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
私は病院の個室のベッドで、枕を頭にひっかぶって叫んだ。
「知りません知りません! 私は徳川埋蔵金のことは何も存じておりません! 話すことは何もありません!!」
「梢。我々が探しているのは徳川埋蔵金じゃないぞ~。それと、あまり大声を出さない」
しー、と指を口元に当てる鶴見中尉。
「むしろ、それについて知ってることを我々に話されても困るというか……」
困惑顔の月島軍曹。
それを聞いて私はガバッと起き上がり、
「ちなみに私は埋蔵金など存在しなかったという埋蔵金架空説を推しております」
「夢のないことを言うな、梢。それとまだ熱があるんじゃないか?」
鶴見中尉が私の額に手を当てる。うむ。まだ38℃を下回っておりません。
慣れない旅で私は消耗しており、数日寝込んだ。
で、意識が戻ってから、鶴見中尉と月島軍曹がお見舞いに来た。だが、マジで話せることが何もなかった。
「尾形百之助がいながら、残りの遺品を失火で全て焼失させてしまったと? 残念極まりないことだ」
鶴見中尉は口ひげをなでつけながら言う。私は冷や汗をかきながら、
「彼が猟に出てる間に、私が火をおこしてたんですが慣れてなくて……」
「火をおこせなかったではなく、逆に派手に燃やしてしまったのかね? なぜ?」
怖い怖い目が怖い。相変わらず的確にツッこんでくる。
だが私がごにょごにょ言ってると、中尉はフッと笑い、
「詳しい話はいずれ回復したら聞かせてもらおう」
「はあ……」
怖い怖い怖い。
しかし頭脳明晰だからこそ、鶴見中尉は、私が『他の時代から来た』という結論を導けない。
けど知らぬ存ぜぬをずっと続けても、尾形さんみたいに『説明がつかない。本当のことを吐け(銃を突きつけながら)』になる可能性もある。
ウソの加減に気をつけないと。
「梢。何か欲しいものはあるかね?」
私にお布団をかける鶴見中尉。
――網走監獄への地図。
頼めるかっ!!
「刺繍(ししゅう)でもいたしたいので、道具をいただけますれば」
「分かった。熱が下がった頃に持って来てあげよう」
鶴見中尉は私の頭を撫で、病室から出て行く。
いや、もう来なくていいっす。
そして目を閉じようとして気づいた。
「…………」
月島さんが、まだ病室にいた。