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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第7章 尾形さん3



 尾形さんは無言で、お金を懐にしまう。
 女を捨てて逃げ、金までもらうとか。
 彼の山より高いプライドがどれだけ傷ついてるか、想像に難くない。
 フォローしてあげたいけど、そんな余裕ないしなあ。

 あと身体がダルすぎて本当に横になりたい。

「網走(あばしり)で……」
「え?」

 尾形さんは絞り出すような声で言った。

「俺も網走に向かう。そこで、もう一度おまえの返事を聞く。
 そのとき梢が俺を選んだら、もう二度と――」

 瞬間に尾形さんが身を翻し、走り出した。
 
「え……」

 余韻も何もない――あまりにも唐突に呆気なく、尾形百之助は闇の中に消えた。

 だがその理由はすぐ分かった。直後に銃声が聞こえたから。
 人が大勢走る音、馬の走る音、怒号。そしてまた銃声。
 この美しい月明かりの中で、何人か亡くなったのだろうか。

 私は正真正銘、身一つになり、遠ざかる銃声を聞いている。
 そしてメールの内容を思い出してみた。

『網走監獄で待つ』

 ……よく考えたらホラーじゃね?
 いったい誰が私にメールを打って、何で網走監獄で待ってるワケ?
 一体誰が待ってるっての?

 今度こそタイムパトロールかティンダロスの猟犬じゃなかろうな?
 てかこの時代、ラヴクラフト先生、生きてるじゃないか。浪漫だなあ。

 とかアホなことを考えながら、ずりずりと木の陰から出る。
 囮くらいなれないかなと思って。

 尾形さんがいない。尾形さんはいない。
 ついさっきまで私の横にいて、声をかけ、抱きしめてくれたのに。

 だけど今はいない。彼は杉元さんたちと合流し、彼らと旅をする。

 私ではない。

 当たり前のことなのに、それがとても不思議で――悲しかった。
 
 月明かりが本当にきれいだ。

 高熱でふらふらする身体で、私はよろめきながら歩き――案の定、よろけた。

「!!」

 けど倒れる寸前、誰かが私に駆け寄り、身体を支えてくれた。
 だがお礼をいう間もなく、聞き慣れた声を聞いた。

「鶴見中尉殿、確保しました!」


 ……ども、お久しぶりです。月島さん。


 かくして私は、第七師団に捕まったのであった。


 ――END
 
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