【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「何だこれは。何でおまえが網走(あばしり)監獄のことを――」
尾形さんは、もっとワケが分からないという顔。
ん? 網走監獄が何なのか、尾形さんは知ってるの?
『――!』
だが二人してハッとする。人の気配がすぐ近くまで迫っていた。
スマホのブルーライトは目立ちすぎるから、見つかったのかも。
早くここを離れてもらわないと。
いやでも誰がメールを送ったのか。それだけでも確認しないと――。
と送信元を見ようと画面を確認すると。
『充電して下さい。残り1%です』
あああああああああ!! そういえばスマホをずっとつけっぱなしにしてたああああ!!
手回し充電器!? 熊よけスプレーと一緒に天に帰ったわ!!
頭を抱えるが不幸中の幸いと考え直す。
これで万が一スマホが第三者の手に伝わっても、未来のテクノロジーが知れ渡ることはない。
「尾形さん……もしインカラマッさんに会えないか、会っても元の世界に戻れなかったら……私、網走監獄に向かいます。
そのとき会えたら、スマホを返して下さいね……」
まあそんな偶然、あるわけないが。
くっそ。視界がぐらぐらする。身体が震え寒くて仕方ない。
「会えたら、な。それまでおまえの秘密は決して誰にも話さんし、これも誰にも見せない」
尾形さんは布にスマホを包み、懐にしまう。
そして二人で見つめ合った。尾形さんが顔を近づけたから、ちょっと困った。
「ダメです……風邪、うつる……」
「かまわん」
そう言って抱き寄せられ、二人で長い口づけをかわした。
胸が痛い。二人で逃げる提案を断った。でもこの、張り裂けそうな胸の痛みが何よりの真実だ。
二人でずっと進みたかった。
道なき道でもいい。
どこまでも、一緒に歩いてみたかった。
けど今、私が泣いたら尾形さんの決意が揺らぐ。
大好きだから、好きな人には己の信じる道を進んで欲しい。
……てか尾形さん、何で埋蔵金探してるんだっけ?
今さら聞くに聞けない雰囲気だけど、この男のことだからなあ。
『実は心底どうでもいい理由でした』とか、マジでありそうだわ。
「梢?」
「んん……ゴホン、あと、このお金も、持ってって下さい……どうせ取られるんだし、私より、あなたが、使って……」
10円。ここでは一ヶ月分の給料だ。