【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
選択肢など無いことはハッキリしている。
尾形さんには女なんかより、優先すべき目的がある。
「いいですよ、私は大丈夫だから行って下さい」
私はどうにか起き上がって尾形さんに外套を押しつけ、草の上にまた横になる。
熱、さらに上がったかもしれない。ちょっと起きただけで頭がぐわんぐわん鳴ってる。
「私一人なら、ヒドい目にはあわされませんよ……。
実際、私は徳川埋蔵金なんて興味もないし、話せることもないんだから」
「あ。うん……」
尾形さんが何か言いたそうにしてるが、何だろうね。
「あとですね……助けに来るとかベタなこともしなくていいですよ。もともと、次の町で別れる予定だったんだし」
「…………」
彼がギリッと歯を食いしばるのが分かった。
うんうん。『おまえを連れて逃げる』と言い切ったプロポーズがまんま己の黒歴史になる恥辱。
よーく分かりますとも。
でも、このピンチを招いたのは私の自爆行為だ。
いくら第七師団が精鋭つうても、山火事なんて大ポカやらかさなかったら、こんなに早く発見されなかったはずだ。
「梢、俺は……」
「最低のクズ野郎でしょ……分かって、ますよ」
私はもう一度起き上がった。
尾形さんとは今が、今生のお別れになるかもしれない。
でも、そうはしたくない。分かってる。
だから私はポケットからスマホを出した。
「尾形さん……スマホ、預かってて下さい。これを鶴見中尉に取られたら本当に歴史が変わってしまうから……」
けど、あれほど触りたがってたスマホなのに、尾形さんは忌々しげに見ただけだった。
「俺が持っていていいのか。奴らに取られるのが不味いなら、ここで破壊した方が」
「残債が残ってるからダメです!」
キッパリ言い切ると、
「……そうなのか?」
かなり疑わしげに言われた。そして尾形さんは受け取ろうと――。
「そだ。待って下さい。メールだけ……」
(多分)明治に来てから受信した、謎のメールだけは確認しないと。
「何だよ。めーるって」
尾形さんも気になったのか覗き込んでくる。
追い払いたいけど、今はそれどころじゃない。
私が新着メールを開くと――。
『網走監獄で待つ』
件名はなし。本文はこれだけだった。
「は?」
あまりにも意味不明すぎ、ポカンとした。