【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「…………梢、梢」
「……っ!」
肩を揺さぶられ、ハッと目が覚める。
疲労で寝ていたらしい。身体に尾形さんの外套をかけられていた。
あたりは暗闇だった。
だが月明かりがある。進めないことはないだろう。
「尾形さん……出発ですか……?」
立ち上がろうとし、グラッと膝が崩れた。
何だこれ。全身が痛い。頭がガンガンする。気持ち悪い。
そして冬でもないのに怖いくらいに寒い。
「熱がある。もう少し横になっていろ」
額に手を当てた尾形さんは、無感情な声で言った。
くっそ。温泉宿のせいだ。だからあのとき嫌だって言ったのにもう。
まあこっちに戻ってきてから心労が続いたし、汗だくで限界まで体力使えば身体くらい壊すよね。
しかし最悪のタイミングだ。
自分でも額に手をやり、その高熱に驚いた。
体温計なんてないけど確実に40℃は行ってる。自覚したら身体が一気にダル重くなった。
「大丈夫、ですよ。第七師団が近くに、いるんだし……夜の間に、進まない、と……」
でも弱音など吐けないと起き上がろうとするが、
「馬鹿言ってんじゃねえ。ただでさえ夜道の移動は危険なんだ。病人を歩かせられるか」
「でも……」
「いいから横になってろ。これを食え」
そう言って私の口に何か入れた。チョコレートのカケラだ。甘い。ついでに水も含ませてもらう。
しかし状況は非常にまずい。熱に浮かされた頭でもよーく分かる。
尾形さんも、表面上は何でもない素振りをしているが、詰んでることは自覚しているはずだ。
私に出来ることは? 無い。
というか焦ってリュックを燃やすんじゃなかった。
中に風邪薬も冷却ジェルもあったのになあ。
「――――っ」
尾形さんの身体が強ばるのが分かった。
私もチラッと周囲を確認し、分かった。
松明の炎が見える。そう遠くではない。
「すごいですね。こんな暗いのに捜索を続けるなんて……」
「ぬかるんだ場所もかなり通ったからな。足跡をつけられたかもしれん」
となると、いよいよ選択肢は狭まっている。
一つはこのまま二人そろって第七師団に捕まる。
二つ目。尾形さんが私を見捨てて一人で逃げることだ。