【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第3章 ラッコ鍋(尾形編)
「確かに何人かいらしてます。でも皆さん、ちょっと休憩して帰られます。
誰もが何度も来れるわけじゃないみたいで、大半の人は一回か二回でもう来なくなるんです」
アシリパちゃんにはもう一度会いたいなあ。アイヌ文化を死ぬほど取材したいのに。
「…………先日、あんたくらいの娘が、第七師団の本拠地にスパイ容疑で拘束されたという噂が広まった。
その娘は西洋人の格好とも違う、ずいぶんと変わった格好だったという。心当たりは?」
……さらに話題転換されたが、心臓がキュッとなってしまい、それどころではない。
どうにか額の汗をぬぐい、平静を装った。
「いや知らないですし」
「なら単刀直入に聞こう。おまえは妙なカラクリを使って、俺たちをここに集め、情報を引き出そうとしているんじゃないだろうな?」
ファンタジーにもほどがあるわ。
例え百年先の技術でも、北海道のあちこちにいる軍人さんを好きなときにお庭に呼ぶなんて無理ですって。
それ以前に、
「それで私に何の得があるっていうんです!」
「…………」
尾形さんは鋭い目で私を見ている。
いや知らないって。何があろうと百年前の話で私には関係ないし。
というよりも、茶飲み友達になれたと思った人に、こうも糾弾されるとさすがに精神的にきつい。
「尾形さん、ひどいです。私はここに一人きりだから、来る人とお茶飲んで話を楽しんでるだけなのに――」
ポロッと涙がこぼれた。
この前の鶴見中尉のが、トラウマになってるなあ私。
「……悪かった。少し疑り深くなっていたようだ」
尾形さんも言いすぎたと思ったのか、頭をガシガシかいて謝ってきた。ざまぁ。
「……泣かせるとか、そういうつもりじゃなかった。
ただ珍しい肉が手に入ったから、おまえの滋養に良いだろうと持って来ただけだ。らしくないことをした」
全くだ。疲れてるのか? 尾形さん。
「俺はもう帰る。妙な勘ぐりで気を悪くさせてすまなかったな」
そう言って身をひるがえす。
そのとき。
「……あっ」
「何だよ」
「いえ、その……」
無意識だった。気がつくと、私は尾形さんの外套の裾をつかんでいた。