【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
そのまま、しばらく見つめ合った。
撃たれるかもしれない。
そんなかすかな恐怖が胸にあったが、それもいいかと思った。
私が元の時代に戻りたいのは『歴史を変えたくない』という、ほぼ義務感からだ。
戻ったところで閉塞した状況なのは変わらない。
それくらいなら、ここで終わるのも美しいかもしれない。
そう思った。
「…………」
だが尾形さんは銃を下ろし、私に背を向けた。
「……柄にもないことを言った。忘れろ」
無機質な声。出会った頃のようによそよそしく冷たくて。
「いいですよ。ここでお別れしますか?」
傷ついた素振りもない私に、尾形さんは舌打ちした。
「おまえも山中で放り出されちゃ困るだろう。俺だって買い物や馬の調達もある。
次の町までは送ってやる。だがそこまでだ。あとはお望み通り、一人でせいぜい頑張るんだな」
フラれたからって冷たいなあ。
私だって、プロポーズを断るのは勇気がいったんだぞ!
……て、プロポーズ。んんん。プロポーズかああ。
今さらながら自覚し、顔が熱くなる。
「何、不気味なツラしてやがる。行くぞ」
尾形さんは素っ気なく言って歩き出した。
「ま、待って下さい!」
私も慌ててリュックを担ぎ直して追いかける。
しかし気まずいことになった。先を思い、私は頭が痛くなった。
…………
…………
かくして、何をとち狂ったか突然プロポーズしてきた尾形さんと、あっさり断った私。
その後どうなったか?
『私たちはその後、一切言葉を交わすことはなかった。
私が何を言っても、尾形さんは無表情に返すだけで会話は必要最低限。
夜も互いに背中を向け、彼から私に触れてくることはない。
私たちはそんな虚しい間柄になっていた』
――という感じになったと。
思うでしょ?
「梢。なあ『すまほ』をまた見せろよ」
尾形さん、背後っから私に抱きつき、せがんでくる。
「ダメったらダメです!!」
「いいじゃねえか。少しだけ。写真、撮らせろって」
ゴロゴロと身体をすりつけてくる。私はリュックをかばいながら、
「ダメったらダーメー!! 目が悪くなります!!」
……明治の軍人さん、百年後のテクノロジーへの好奇心が勝ったらしい。
少しは気まずさを装えやっ!!