【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
尾形さんがおかしい。いや、元々何を考えているか分からない人ではあるが、今は何かヤバい。
「い、いえ、私がこの世界に居て良いワケないでしょう。
未来の物品も危険ですが、私はこの先、この世界に何が起こるかある程度は分かるんです。
それを誰かに知られたら――」
「戦争と災害だろう?」
「え! 何でそれを――!」
思わず反応し、ハッと口をふさぐ。尾形さんは銃を構えたまま、ニヤリと笑う。
「そういうのはな、一定の周期でどこかしらで起こるもんだ。
予言者が予言する未来は天変地異と相場が決まっている」
「……いえ、でも……」
それとこれとは、全く話が違う。
私が言いたいのは確率の未来ではなく、確実に起こる未来だ。
どうにかして話をそらしたい、のだろうか……。
「梢――」
次の瞬間に、尾形さんに抱きしめられる。
「俺と遠くに行くか?」
「え……?」
「戦争も災害も、おまえの知っている呪われた『未来』が届かない場所に……俺が、連れて行ってやる」
だから。
何で、そこまでして私を――。
答える前に唇を重ねられる。
ずいぶんと長いこと、唾液の絡む音が響いた。
それが終わっても、尾形さんは私を抱きしめたまま。
抱き寄せられた外套からは、変わらない硝煙の匂い。
「馬鹿馬鹿しくなる……」
「は? え? 何がです?」
肩越しに見える山々を見ながら、平々凡々たる返答しか出来ない。
「おまえのアホ面を見ていると……自分が馬鹿馬鹿しくなる……何もかもが……どうでもよくなる」
『何を』と思うが、尾形さんは多分、応えてくれないのだろう。彼が生死を賭した危険な闘いに身を投じていることは、何となく分かる。
その目的や理由なんて、聞いても教えてはくれないのだろう。
でもそれが『私』一人のために、どうでもよくなったと。
そう言い切った。
「梢……もしおまえが、―――よりも俺を選ぶというのなら……」
自信満々の彼らしからぬ、小さな声。言葉の一部が聞き取れないほどに。
私の背中に食い込む手が痛い。抱きしめられているというより、捕らえられている錯覚に陥る。
そして尾形さんの表情は見えない。ただ恐ろしいほどに汗をかき、息が荒い。
「おまえが俺を選ぶのなら、ここから先は俺が切り開く」